ドイツの建築家資格制度

建築技術者教育研究所　主任研究員／池田吉朗

　諸外国の建築技術者制度の現状を紹介するこの欄では、今回は「ドイツの建築家資格制度」を取り上げます。
　1990年10月に実現した東西ドイツの統合がもたらした様々な影響、さらに第1回のこの欄で紹介したEU統合に伴う資格の相互承認などの動きもあり、近年のドイツの建築家をとりまく状況には、かなり流動的なものがあるようです。

「建築　普及＆資格」NO.5（1995年）より

　ドイツ連邦共和国は、1990年（平成2年）10月の東西統合後、16の州によって構成されることとなりました。建築家の登録制度は、連邦法によってではなく、各州ごとの建築家法（我が国の建築士法に相当）によって規定されています。ただし、旧東ドイツ地域の州のうちには、建築家会議所は設立されていても、建築家法は未制定の州があるようです。
　これらの建築家法（州法）は、無資格者が「建築家（Architekt）」という称号を使用することを禁止しています。また、我が国の建築基準法に相当する建築法（州法）では、大部分の建築行為は建築確認を得ることが必要とされ、その申請書類の作成・提出は、建築家等、一定の有資格者でなければ行えないため、結果として大部分の建築行為は建築家による業務独占となっています。
　各州の建築家法の規定する資格者には、我が国の建築士に相当する「建築家」のほか、「内装建築家(Innenarchitekt)」及び「景観建築家（Landschaftsarchitekt）」の、合計3種類があります。ただし、建築物の設計及び工事監理をすることのできる者は、狭義の建築家のみとなっています。
　各州では、建築家法に基づいて、建築家会議所（Architektenkammer）が設立されており、建築家会議所は、建築家名簿の作成、管理のほか、建築家の業務に関連する各種の活動を行っています。
前記の3種類の建築家の登録制は全16州で実施されており、そのうち10州では、都市計画家（Stadtplaner）の登録制も実施されています。
　1993年における全州での登録者数の合計は、都市計画家を含めて88,657名で、その内訳は、
　建築家　77,752名
　内装建築家　3,929名
　景観建築家　3,353名
　都市計画家　788名
となっています。
　また、人口1,000人当たりの建築家の数を旧東西ドイツ地域で比べると、西 1.13人、東 0.30人と、かなりの違いがあります。

(1)各州の建築家会議所の連合体が連邦建築家会議所（Bundesarchitektenkammer；BAK）であり、1969年に設立され、所在地はボンに置かれています。ドイツを代表して、欧州建築家協議会（ACE）の執行委員会メンバーとなっています。

(2)BAKの主な任務は次のとおりです。
ア．各州の建築家会議所に対する必要な情報の提供
イ．行政庁その他の機関に対する職能団体としての判断
ウ．建築家の職業及び報酬に関する基本理念の確立
エ．建築家の権利、義務に関する標準的な規則の策定
オ．補習教育及び継続教育の推進
カ．各州の建築家法その他の制度の統一化
キ．建築家協会その他の組織との接触の推進

(3)BAKの組織は次のとおりです。
ア．総会
　各州の建築家会議所の会長及び各会長の指名する2～5名の会議所会員で構成する。BAKの最高意思決定機関であり、少なくとも1年に1回招集される。
イ．幹部会
　BAKの会長及び副会長（2名）で構成する。BAKの執務を指導する義務を負う。
ウ．理事会
　各州の建築家会議所の会長、幹部会の構成員、並びに、内装建築家、景観建築家、公務員建築家及び被用者建築家のそれぞれについての代表者各1名で構成する。総会から委任された案件、幹部会から提出された案件について決定を下す。

　ドイツ連邦共和国においては、前述のとおり、各州が建築家法を制定し、州建築家会議所を設立していますが、各州の制度には類似点が多いので、本稿では、人口最多のノルトライン・ヴェストファーレン州（NW州）を取り上げて説明します。

(1)NW州建築家会議所は、州の建築家法に基づいて設立された公法人であり、それぞれの会議所が建築家名簿に登録した会員全員をその会員としています。
　なお、NW州においては、1992年12月に建築家法を廃止して、新たに建設会議所法を制定し、建築家会議所が都市計画家名簿をも作成、管理することとなりました。登録された都市計画家も、建築家会議所の会員となります。

(2)建築家会議所の組織
ア．代表者会議
　建築家会議所会員の直接選挙により選出されます。会員200名当たり1名の代表者が選出されます。主要な任務は、定款、諸規則、予算計画の決定等です。
イ．理事会
　代表者会議により選出されます。会長、副会長（2名）及び理事（6～10名）で構成され、理事会は、建築家会議所の業務を運営します。
ウ．登録委員会
　建築家名簿（都市計画家名簿を含む）への登録、登録抹消及び関連する証明書の発行についての決定を下します。登録委員会は強い独立性を有しています。
エ．その他の委員会等

• アカデミー
• 調停委員会
• 設計競技委員会
• 扶助機構

(3)建築家会議所の任務は次のとおりです。
ア．会員の職業上の利益の保護、職業上の義務の遂行の監視
イ．建築文化、建設活動等の促進
ウ．建築家名簿（都市計画家名簿を含む）の管理、証明書の交付
エ．会員の専門教育
オ．鑑定、見解表明等による、行政庁及び裁判所の支援
カ．職業上の行為から生ずる紛争の調停
キ．設計競技の推進
ク．鑑定人の任命

(4)建築家登録申請の資格
　次のいずれかに該当する者が建築家登録申請の資格を有することとなります。
a．NW州に居住地又は開業地を有し、次のいずれかに該当する者
ア.ドイツの大学で各専門分野（建築、内装建築、景観建築又は都市計画）の教育を受けて卒業し、その後、少なくとも2年間の実務活動を行った者。
イ.ドイツの大学における、各専門分野の教員。
ウ.NW州の上級又は高等建築行政職に就く資格を有する者。
ア.及びイ.の大学として、外国の教育機関も認められるが、その認定は監督行政庁（NW州建設・住宅省）が行います。
b．狭義の建築家の場合、欧州共同体加盟国で授与された卒業証書等（指令（85/384/EEC）に規定されている）を有し、2年以上の実務活動のある者。
c．以上の前提条件を満たさないが、建築の分野での能力資質が特に優秀であることを証明できる者。

(1)ドイツ連邦共和国における建築家の主要な職能団体は、ドイツ建築家協会（BDA）です。BDAは、ドイツ連邦共和国における代表的な建築職能団体であり、1903年に設立されました。国際建築家連盟（UIA）のドイツ支部として、また、欧州建築家協議会（ACE）の総会メンバーにもなっています。
　BDAは、16州に所在する州協会の連合体（連邦協会）です。BDAの州協会は、その正会員資格を公務員や被用者でない自由業建築家に限定しているため、BDAの規模は小さいものとなっており、正会員は約4,260名（うち、旧東ドイツの5州では計106名のみ）しかいません。

(2)BDAの目的及び任務は次のとおりです。
ア．社会に対する責任において、設計及び建築の質の向上を図る。現実の課題に重点を置いて活動を進める。
イ．設計の独立を図る。
ウ．設計及び建築に関する要請の変化に常に注意を払い、熟慮を促す。
エ．以上の目的を実現させるため、政党政治的な活動を行うことなしに、世論及び政治的意思形成に働きかける。

(3)BDAの連邦協会の組織は次のとおりです。
ア．代表者総会
　州協会会員によって選出された代表者及び連邦理事会で構成される。少なくとも1年に1回は開催され、連邦理事会又は幹部会にその権限が委任されている以外の、連邦におけるすべての基本的問題に関する決定等の任務を有する。
イ．連邦理事会
　州協会会長及び幹部会で構成され、連邦協会会長によって招集される。州協会に関する問題について決定を行うことを任務とする。
ウ．幹部会
　会長、副会長及び専門部局の局長で構成される。幹部会は、連邦事務局の活動を決定する。

　EC閣僚理事会指令（85/384/EEC）により、加盟各国は、自国の建築家登録のための要件として、他の加盟国における4年制以上の大学相当の建築課程で取得した学歴を、自国内の認定課程で取得したのと同等に承認するよう求められています。
　指令に基づく制度により、ドイツで登録された建築家の実数は明らかではありません。ただし、1990年末の時点において、この制度で登録された外国の建築家の数は、フランスで177名、英国で258名であり、ドイツにおいては200～300名の規模と推察されています。