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公益財団法人 建築技術教育普及センター
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フィンランドにおける建築家資格と職能団体

 (財)建築技術教育普及センター建築技術者教育研究所主任研究員 渡辺光明

「QUA クウェイ」NO.7(1998年)より

 今年2月の長野オリンピックでは、日本選手の大活躍に目を見張った一方で、フィンランドをはじめ、北欧諸国の国名や、十字形を共通とする国旗に幾度となく接した方も多かったのではないだろうか。
 フィンランドは、北は北極圏のラップランドに位置し、南はバルト海、東はロシア(旧ソ連)に接する面積約33.8万平方キロメートル、人口約510万人('95)の国で、その地政学的位置のために、冷戦時代には中立政策を堅持してきたが、国際情勢の大きな変化の中で、1993年2月EU加盟交渉が開始され、国民投票を経て、1995年1月、EUの一員となっている。
 フィンランドといえば、これまでも日本ではサンタ・クロースやムーミンの故郷、サウナ風呂やログハウスの国として知られているが、また、その独特の感性によるデザインでも知られ、巨匠ともいえる建築家アルヴァル・アールト(注1)に代表されるようにすばらしい建築作品を生み出している。
 しかし、ここ数年の建設産業についてみると、経済成長と全国的な都市化に伴って進められてきた道路や鉄道、住宅の建設も、不況ということもあって保守や補修に重点が移っており、住宅建設プロジェクトの着工面積を例にとると、1996年の着工面積は28百万平方メートルで、これまで最も多かった1990年の62百万平方メートルに比べると半分以下となった。それでも1996年の数字は1995年の15%増と好転し、建築家の失業者数も、1995年末には約800名であったものが1996年末には600名強となっている(注2)。

建築家

 フィンランドをはじめ、自らを北欧と称する5カ国のうち、アイスランドを除くノルウェー、スウェーデン、デンマークの4カ国には、建築家についての試験制度や登録制度はない。
 フィンランドでは、建築家(Architect:注3)という名称は、建築の学位(修士)を取得した者を指しており、これは法的に保護されている。一般には学位取得者が建築実務を行うに当たっての資質を有すると考えられ、また、同時に後述するフィンランド建築家協会への入会資格ともなっているが、環境省が所管する建築法には、建築家についての規定はなく、建築家の業務は法的に保護されてはいない。建築設計を行うにあたって免許は必要なく、適格な建築設計の判断は地方自治体等に任されている。

大学における建築教育

 フィンランドにおける大学は21を数えるが、そのうち建築についての学位が取得できる大学は、ヘルシンキ工科大学、タンペレ工科大学、オウル大学の3大学だけである。中でもヘルシンキ工科大学では、既に1872年から建築教育が行われているが、他の2大学で建築教育が始められたのは1960年代の後半からである。
 大学における学位制度は段階的な改革を経てきており、1990年代の初めになされた見直しによって、学士と修士の2段階の学位制度が導入された。しかし、建築学科の場合、学士だけで卒業することはできず、学位は修士以上となっている。
 建築学修士の標準的なプログラムは、180単位(1単位は平均40時間に相当、20単位は学位論文)で構成され、これにはオンザジョブ・トレーニングをはじめとして2~10単位(1単位は3週間の研修に相当)の実務研修が含まれている。修士の学位は規定上5年間で取得可能であるが、実際にかかる年数は、タンペレ工科大学を例にとると約7~8年である(エンジニアの場合は約6年)。
 また、大学はすべて国立で教育省の管轄下にあり、学費は通常国家負担となっているが、各大学は独立して自主的運営を行っており、建築教育の内容を認定するような外部機関はない。
 3大学の各年度の建築学科への入学定員は、必要な労働力の評価に基づいて教育省が決定した目標数を参考に、各大学が独自に定めているが、1990年代前半の雇用状況の急速な悪化に伴って減少してきている。1994年度ではヘルシンキ工科大学で40名、タンペレ工科大学で35名、オウル大学で30名の定員に対し、3校合わせて406名が入学試験を受け、そのうち合格したのは96名であった。
 なお、大学以外にも、5つの技術専門学校があり、12ヶ月の実務研修を含む標準4年間の建築教育が行われている。ただし、ここで取得できる学位は建築学士で、学位取得者の名称も建築家とは異なっている(注4)。

フィンランド建築家協会(SAFA)

 フィンランドで最初の建築家の職能団体は、1892年にフィンランド技術協会のもと、他の専門職能団体とともにヘルシンキで発足した「建築家クラブ」である。1919年、建築家クラブは技術協会から独立し、フィンランド建築家協会が設立された。本部はフィンランドの首都であるヘルシンキに置かれ、現在ではタンペレ地区など12の支部と公務員建築家連盟などの6つの下部組織がある。

会員

 発足当時39名であった会員数も、1975年に1,000名を超え、1997年当初には2,430名(男性65%、女性35%)にまで発展しており、フィンランドの建築家の92%が団体に所属している。
 会員の70%は自らの事務所又は民間企業で働いており、20%が主として地方自治体等で公務に従事している。
 会員資格は、フィンランド国民でフィンランドの大学または職業専門教育機関を建築家として卒業した者もしくはこれに相当する職業的資格を有する者である。外国人の場合、他の北欧4カ国(スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、アイスランド)の国籍を有する者は、フィンランドにて建築関係の仕事をしていること、 上記以外の国の者は、さらに、フィンランドに2年以上在住し、フィンランド語かスウェーデン語に堪能であることが要件となっている。

主な活動

 協会の前身である建築家クラブの活動は、当初より建築上の課題と職業人としての興味に二分されており、1893年にはスウェーデンにならって建築コンペのルールが設定され、1895年には料金に関する規定が定められている。以後改正を繰り返しながらも、1991年に自由競争の原則に反するとの理由で廃止されるに至るまで、建築家の報酬の算定に協会の設定した料金システムが用いられてきた。
 また、1930年代の長引く不況の中、1936年に協会は援助基金を設立した。これは職に就けない建築家を援助するものであるが、後には第二次大戦によって死亡した建築家の遺族の援助にも用いられている。この基金は、管理運営委員会のもと現在も機能している。
 1970年代になると、会員数が1,000名を超えるとともに、公的な改革や意思決定に対する影響力を高めていき、協会の代議員が国や自治体の委員会、国際組織、審査会、基金などの委員となる機会が増えていった。
 現在では、会員間の親睦活動に加え、対外的な活動として、協会員の職能基準や職能倫理の監督、料金・費用についての情報提供を行う他、政治家や官公庁に対して意見の申し入れや話し合いを行っている。会員に対しては、マーケティング、契約、雇用等に関する情報提供を行っている他、いくつかの小委員会を設け、建築教育に関する問題を扱ったり、業務規定についての提言を行っている。
 なお、1948年よりUIA(Union Internationale das Architectes:世界建築家連合)に加盟している。

建築技術者認定制度

 フィンランドには、建築家と同様、建築技術者についての試験・登録制度がなく、誰がエンジニア業務を行うかということについての法的な規制はない。しかし、エンジニアが自らの能力や知識・技術を高め、専門家としての質を確保することを目的に、職能団体による自発的な制度として建築技術者認定制度が設けられている。
 この制度は次の職能団体を構成メンバーとし、認定資格ごとに認定委員会を設けて運営されている。

[構成職能団体]

  • フィンランド技術者協会
  • フィンランド建築家協会
  • フィンランド建設技術者・建築家協会
  • 建設技能者中央協会

[認定資格]

  • 建築物監督者(3つのレベル)
  • 建築現場監督者
  • 建築業における建築主任者
  • コンクリート建設における設計技術者
  • コンクリート建設を伴う建築監督者
  • 開発者(2つのレベル)
  • 木造建築設計技術者
  • 木造建築監督者

 認定希望者には、基礎教育、職務経験、補足的な研修や試験が求められるが、必要な職務経験年数はその基礎教育の違いによって2~10年となっている。

フィンランド技術者協会(RIL)

 フィンランド技術者協会は、土木工学における修士以上の学位者によって1934年に設立され、本部はヘルシンキに置かれている。

会員

 5,000人以上の会員がおり、そのうちの70%以上が土木工学における修士の学位取得者である。また、土木工学専攻の学生のほぼ100%がジュニア会員として登録されている。
 会員の約50%がコンサルティング会社、土建業者等の私企業に、約30%が自治体又は自治体の保有する企業に所属しており、所属分野別には、住宅建築工学が約40%、輸送工学(道路、鉄道等)が約15%、水道及び下水工学が約10%となっている。
 なお、建築家協会と同様、会員のために独自の失業補償基金を設けている。

主な活動

 会員向けの会報「建設技術者」、専門誌「建設技術」に加え、業務基準、建築材料、水質汚染等についてのハンドブック、給与や報酬についての統計的情報、契約モデルの出版を行っている他、協会内部に50を超える小委員会を設け、業務基準、技術的問題、建築材料の品質保証等広範な分野の問題を扱っている。
 また、教育にも力を入れており、独自の継続教育プログラムがあって、各種の研修セミナーを実施している。協会では、2年に一度、社会にとって価値のある建築に対して、建設エンジニア優秀賞を贈るとともに、毎年、中間試験及び卒業試験において優秀な成績を収めた土木工学科の学生の表彰、土木工学におけるリセンシアート(注5)または博士課程の研究の表彰を行っており、会員に対してもリセンシアート及び博士の学位取得を奨励している。

試行的な建築家登録制度の検討

 建築実務を行いうる適格な者の判断について、現在のように各自治体等がそれぞれの基準を用いているのでは、公平性に欠け住民の利益にもならないとの考えから、フィンランド建築家協会が中心となって試行的な登録制度の検討を始めている。これには、建築の学位、実務経験年数、継続教育、登録更新等が含まれ、例えば、教育等によって建築設計者の資格を定めるような法案の成立を働きかけることを視野に入れている。

(注1):Alvar Aalto 1898-1976
 今年はアールト生誕100年にあたり、フィンランド国内での行事はもとより、日本でも12月から東京のセゾン美術館で世界巡回展が開催される。
(注2):フィンランド建築家協会1996年度年次報告書
(注3):フィンランド語ではarkkitehti
(注4):rakennusarkkitehti
(注5):Licentiate(Lic.) 修士と博士の中間に位置する学位

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