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公益財団法人 建築技術教育普及センター
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中国の建築家資格制度

住宅・都市整備公団住宅都市試験研究所専門役
(前建築技術教育普及センター研究員)/海老塚良吉

 中国では、現在、計画経済から市場経済への転換が急速に進められていますが、建築師(建築家に相当する中国語)の制度についても、従来の資格制度を改革して、新しい建築師登録試験を1995年より全国で始めようとしています。これは、できる限り国際的な傾向に一致させて、世界的にも通用する建築家の資格制度を確立し、建築活動を活発に進めていこうとするものです。
 今回は、中国のこの新しい動きと、今までの建築師制度の概要について、中国の新しい建築師条例や中国建築学会の雑誌論文等を参考にして紹介いたします。

「建築 普及&資格」NO.4(1995年)より

1 新しい建築師制度

建築師登録試験の試行

 中国では、1994年10月に遼寧省沈陽市で、新しい1級建築師登録試験が試行的に実施され、約600人の受験者が4日間の試験に挑戦しました。試験の現場には、全米建築家登録委員会協議会(NCARB)、王立英国建築家協会(RIBA)、香港王立建築家協会の関係者9名が視察に訪れました。

試験の内容と時間配分

 試験は、アメリカの建築家登録試験と同様に、次の8科目から構成されています。
(1)設計前期の仕事、(2)敷地設計、(3)建築設計知識、(4)建築施工、(5)環境調整と建築設備、(6)建築材料、構造、現場、経済、(7)建築設計の業務管理、(8)建築設計及び表現
 試験は4日間で、合計29.5時間です。この中で、(2)敷地設計の一部と(8)建築設計及び表現の全部は製図試験であり、その他は、学科試験となっています。建築設計及び表現の製図試験は12時間で、小規模の公共建物の設計が課題で、平面図、立面図、断面図、断面詳細図と設備図が求められています。

建築師試験問題の準備

 1992年、建設部(建設省に相当する)の要請により中国建築学会が登録建築師試験の試案を作り、その後、約40名の専門家で構成された試験設計グループは、人事部(人事院に相当する)試験センターの指導をうけて、問題作成の作業を実施してきました。4回の中間審査の結果、全部で1300題以上の問題と3題のシリーズの製図問題を作成しました。その中から選定された535題の問題と2題のシリーズの製図問題が、1994年の試行試験の問題になりました。

海外の試験制度の検討

 中国は今回の建築師試験制度の改訂にあたり、1980年代後半から世界の主要な国の建築家制度の情報の収集を始め、建築家登録機関や職業団体、学術団体と交流を行ってきました。1993年に中国建築学会は、全米建築家登録委員会協議会(NCARB)、王立英国建築家協会(RIBA)、香港王立建築家協会などと協議を行ってきました。そしてこれまでの中国の建築師制度をふまえた上で、アメリカ、イギリス、日本、台湾、香港の経験を取り入れて、今回の制度を作成しています。試験制度については、アメリカの建築家登録試験の影響を強く受けています。

建築家資格制度の相互承認

 これまでの中国とアメリカ、中国とイギリスの協議では、建築家登録資格の相互承認の原則が必要であるとの認識のもとに、登録試験の情報交流や教育水準の評価が行われてきました。また、各国の建築家団体の世界的な組織である国際建築家連盟(UIA)の中でも、1994年6月に東京で開催された理事会で、職能基準委員会(Professional Practice Commission)の設立が承認され、アメリカ建築家協会と中国建築学会が共同幹事となりました。第1回の職能基準委員会は1994年11月に香港及び深せんで開催され、1996年の第20回バルセロナ大会で建築家資格の国際的標準案を提出し、1999年の第21回北京大会で標準案が通過するようにするとの計画が作成されました。

建築学科の教育基準の評価

 建築家登録制度には、通常、学校教育、実務訓練、建築家登録試験の3つの要素が必要ですが、学校教育の面でも整備が進められてきました。建築学科の学生の教育水準について国際的な承認が得られるように、中国国務院学位委員会は、建築教育水準の評価基準を本格的に制定し、1992年までに中国の天津大学、東南大学、同済大学、清華大学などの8つの大学が評価に合格しました。合格した5年制の大学では専門学位(professional degree)が付与されます。

建築師登録試験の受験資格

 登録建築師条例によれば、1級登録建築師の受験を申請するには次の教育標準、在職経験いずれかに該当しなければなりません。

  • 建築学の修士を取得、在職経験が2年以上
  • 建築学の学士を取得、在職経験が3年以上
  • 建築学専門、工学部専門の本科以上の学歴を取得し、国の規定する教育標準、在職経験の条件を満たした者
  • 設計業績が優れており、認定の結果、教育標準、在職経験の条件を満たした者

 2級建築師の受験を申請できるのは、次の場合です。

  • 建築学専門の本科以上の学歴を取得し、在職経験が1年以上
  • 建築学専門の3年制高専の学歴を取得し、在職経験が3年以上
  • その他の工科専門の高専以上の学歴を取得し、国の規定する教育標準、在職経験の条件を満たした者
  • 設計業績が優れており、認定の結果、教育標準、在職経験の条件を満たした者

登録機関、登録更新、兼業禁止

 1級登録建築師の登録は、全国登録建築師管理委員会が行い、2級建築師の登録は、省・自治区・直轄市の登録建築師管理委員会が行います。
 試験に合格した者には、登録建築師管理委員会が審査の上、試験合格証明書を発行します。試験合格証明書を取得し、法律、職業道徳の規範を守る等の条件に該当する者は、登録証明書を登録建築師管理委員会から取得することができます。この登録証明書は2年毎の更新が必要です。
 登録建築師の従事する職場は、設計会社ですが、同時に2つ以上の設計会社で業務を行うことは禁止されています。1級登録建築師、2級登録建築師が署名する設計図書の範囲は国務院の建設行政主管部門が規定し、登録建築師が責任を負う部分は、必ず登録建築師が署名することが必要です。

2 これまでの建築師制度

技術職名制度(1949年~1985年)

 1949年の中華人民共和国建国以来、1985年までは技術職名制度を採用してきました。すなわち、技術称号は栄誉称号であり、他の職場に移動する場合にも、すでに獲得した技術称号を継続して使うことができました。
 称号のレベルは、例えば、設備・構造設計に携わる技術者については、高級工程師、工程師、助理工程師、技術員の4段階に別れ、建築設計技術者については、高級建築師、建築師、助理建築師、技術員の4段階となっていました。
 しかし、このような技術職名の終身制、名誉称号的な制度を改良するべきとの考え方が起こり、1977年の全国科学技術大会で、技術職名の回復、審査制度の創設、技術職務名と責任の関係の明確化が提案されました。

専門技術職務の招聘制度(1985年~1994年)

 1985年に従来の職名制度を改革して、専門技術職務の招聘制度が設立されました。そして、
(1)ポストとして専門技術職務を設置し、
(2)専門技術職務の資格認定のために、専門技術職務任職資格審査委員会(高級専門家17~25人で構成)を置き、
(3)この審査委員会が認定した者の中から、職場の責任者は技術者を招聘することとなりました。
 職務名称は、国家工程技術職務条例の名称を採用して以下のようになっています。

  • 建築設計技術者の場合:
    高級建築師、建築師、助理建築師、技術員
  • 設備・構造等の技術者:
    高級工程師、工程師、助理工程師、技術員
  • 都市計画専門技術者:
    高級都市計画師、都市計画師、助理計画師、技術員
    各職務の資格要件は、次の各一つを満たす者となっています。
  • 技術員:
    大学専科または中等専門学校卒業後見習い1年、考査に合格
  • 助理建築師:
    修士または第2の学士を取得、考査に合格
    学士または大学本科卒業、見習い1年、考査に合格
    中等専門学校卒業、技術員4年
  • 建築師:
    博士取得、考査に合格
    修士または第2の学士を取得、助理建築師2年
    学士または大学本科卒業、助理建築師4年
  • 高級建築師:
    博士取得、建築師2年
    大学本科卒、建築師5年
    各職務の業務範囲は、次のように規定されています。
  • 技術員:
    一般的な建築設計の補佐的な仕事
  • 助理建築師:
    一般的な建築及び建築群の設計、インテリア設計
  • 建築師:
    機能の複雑な単体設計、比較的大きい建築群の設計、インテリア設計
  • 高級建築師:
    大規模で複雑な芸術的要求の高い現代建築の設計、マスタープラン、インテリアを主管、指導

今後の調査課題

 新しい建築師制度のもとで、これまでの高級建築師等の制度がどのように扱われるのかの情報は、まだ、入手していません。十分な経験のある建築師について新しい1級建築師として認定する者のリストが公報として出されているとの情報もありますが、確かめられていません。
 2級建築師についての動きも、今のところつかんでいません。建築師条例以外では、資料の中で2級建築師について触れているのを見かけていません。中国の人等の口コミ情報でも2級建築師については聞いていません。国際的な建築家制度に近い1級建築師の制度の確立に当面は重点を置き、2級建築師の制度については、まだ、準備が進んでいないのかもしれません。今後も、中国の建築師の制度について、引き続き動向を見つめて行きたいと思います。

Column

中国の経済情勢

 中国の人口は11.6億人(1991年)、一人当たりGNPは全国平均では323ドルだが、北京市、上海市、広州市では1,000ドルを越えている(香港12,000ドル、日本24,000ドル)。都市部では大半の家庭にカラーテレビや洗濯機、冷蔵庫、オーディオなどが普及しており、生活水準は数値よりも実際上は高いように思われる。
 工業生産額のGNPに対する比率は40%を超えており、一人当たりGNPが500~2,000ドルの間にあるインドネシア、フィリッピン、タイよりも高く、過去に工業化政策をとってきた影響が見られる。1992年より海外からの直接投資が急増し、最大の投資国は香港だが、日本は台湾、米国に次いで第4位となっている。

中国の教育制度

 中国の教育制度は、小学校6年、初級中学3年(ここまでは1986年以降全国各地で順次義務教育化が進んでいる)、その後は高級中学3年を経て大学専科3年、または大学本科(教養1年+専門3年)に進むコースと、中等専門学校に進むコースに分かれている。

専門技術者の実態

 全国の建築業界の職員数は1,496万人(1990年調査)であり、その内、専門技術者は143万人で、分野は、施工が89万人、その他建築工事業が19万人、設計26万人、研究等10万人となっており、クラス別には、高級クラス(高級建築師、高級工程師等)、中級クラス(建築師、工程師等)、初級クラス(助理建築師、助理工程師、技術員等)に分けられる。

参考資料

  • 「中華人民共和国登録建築師条例、審査稿(仮訳)」
  • 張 釿楠「新しい進展の開拓:建築士登録試験についての論評(仮訳)」『建築学報』1995年1月号、中国建築学会発行
  • 高 亦三「中国の建築史上の一つの重要事項(仮訳)」『建築学報』1992年9月号、中国建築学会発行
  • 保立 透編『中国の住宅供給制度・建築関連制度』1994年3月、『同』(概要版)
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