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公益財団法人 建築技術教育普及センター
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西太平洋における建築資格登録に関する地域フォーラムに参加して

 (財)建築技術教育普及センター企画部企画課長 上田智夫

「QUA クウェイ」NO.12(1999年)より

はじめに

 新聞紙上では最近、「WTO(世界貿易機構)」という文字を頻繁にみかけるようになりました。インターネット等の通信技術も日進月歩で進化していますが、世界のヒトとモノの行き来もますます加速化し、その結果世界も小さくなっています。一見直接関係ないとみられる「建築士」という資格の世界でもこのような動きの影響はあります。この背景には「資格」というものが国際的にはヒトの自由な動きを阻害していると指摘する国があり、WTOでも様々な資格のあり方について各国に対応を求めることになりつつあります。この一環として昨年にはWTOが「会計士資格」をまずとりあげ、ガイドラインが打ち出されました。2000年以降ウルグアイラウンドに続く新しいラウンド交渉で「建築士」についても医師や弁護士といった他の資格とともに議論され、対策が講じられることになっております。そういったWTOでの動きを見越して、他の経済圏域―たとえばAPEC(アジア・太平洋経済協力会議)でも資格の相互認証等についての議論が活発化しており、今回はこの関連で当センターが最近参加した国際会議を中心に、他国の資格について入手した情報についてご説明したいと思います。

ダーウィン国際会議について

 当センターでは昨年末にオーストラリア建築家認定評議会(AACA)とニュージーランド建築家教育登録委員会(AERB)からの招聘を受け、本年5月末にオーストラリアの北部準州の首府ダーウィン市で開催された「西太平洋地域における建築資格登録と互恵性に関する地域フォーラム」に参加してまいりました。会議の主要な目的は、この地域における(注1)建築家資格の相互認証に関して率直な意見交換をし、共通目標のあり方について探るというものでした。ダーウィン市はオーストラリアの北部を占める広大な(準)州にあり、準州全体でも18万人しかないオーストラリアではもっとも都市化が遅い地域ですが、位置的にオーストラリアでアジアに面しており、アジア各国からのアプローチを考慮して開催されたのだと思われます。会議は3日間の日程で12カ国・経済地域(ホンコン)の関係団体が集まって熱心な討議が行われました。日本からは、当センターの片山理事長、高津企画部長※、吉沢次長等四名が出席致しました。
 会議ではまず事務局により全参加国の建築家資格体系の比較を通じて、代表的な類似点や相違点が挙げられました。
 まずおおよそ各国の体系が類似しているものとしては下記の点が挙げられました。
1)建築家資格を取得する際の主要な教育条件(我が国では大学での建築課程卒業を中心に規定されています)
2)建築教育課程の認定が何らかの形できちんと行われている。
3)建築家資格に関して「名称独占」がある。
4)建築家の業務・行動規定等がきちんと整備されている。
5)資格の剥奪等に際してきちんと不服を申請できる制度がある。

 また相違点については以下が挙げられました。
6)建築教育課程で使用されている言語(日本、中国やタイ等は母国語ですが、豪州、ニュージーランドを初めホンコン、フィジー等、旧英国植民地や英連邦諸国は英語による教育がされている)
7)建築教育課程の中で実務訓練を課している国とそうでない国(例えばニュージーランドでは5年間の建築教育課程の途中で1年間実務訓練をすることが一般的です)
8)建築家資格に業務独占があるかないか。(日本では建築・設計等は建築士のみしか行えませんが、例えばオーストラリアでは必ずしも建築家でなくとも設計等を行えます)
9)職能継続教育の義務(例えば中国では最近、資格の更新制を導入し、その間に一定の講習会や訓練の参加を課すようになりました)

 全体的には上記のようなことが公表されましたが、その他我が国の事情に照らし合わせつつ各国の提出した内容をみると以下のことがいえます。
10)今回の会議参加国の中では大学の教育課程については日本のみ学部教育が4年間でした。不参加国の韓国も我が国に極めて類似している4年間を採用していますが、ヨーロッパ、特にイギリス式の教育を採用しているこの地域の多くの国では5年間の学部教育が主流です。ただし前述したように国によっては5年間の途中の年度に1年間のインターン経験を課していますので、「教育そのもの」は我が国と同様に4年間といえなくもありません。
11)我が国の建築士法(第22条)には建築士は継続して自己の知識及び技能を向上するよう努めるという規定があり、それに呼応する形で建設大臣認定の指定講習会も様々開催されています。各国の状況をみると我が国のように継続教育がきちんと位置づけられていない国もあれば、建築家登録協会に代表される職能団体で義務づけられている国もあり、様々です。この点に関してはあとでも触れますが会議主催国の豪州でも義務づけられていなく、日本の現状のシステムに対しても熱心に質問されました。
12)ヨーロッパの多くの国では「建築家」資格の多くは職能として確固たる位置づけがされ、強固な職能組織を形成していますが、アジアでは社会・文化的背景の違いもあり、国主導の位置づけがされている国が少なくありません。パプア・ニューギニア、フィリピン、ベトナム、豪州、ニュージーランドの5カ国を除く7カ国では建築家自体の行為が国の省庁(建設省、文部省等)で律されています。
13)我が国では一級、二級、木造建築士と3種類の建築家資格がありますが、ホンコン、中華人民共和国、タイでも2種類以上の資格があります。我が国の二級、木造建築士ではそれぞれ単独で設計等ができる建築物がありますが、これらの国の下位資格は上位資格を補助・サポートする権能しか与えられていないこともあるようです。

 活発な議論ののち、今回の会議の成果を確認する意味で決議を行いました。執筆現在では最終的な署名等の手続きをまだ経ていない状態ですが、会議最終日夜遅くまで続いた草案では下記のようになっております。

 各国代表団は以下の内容で推進することを責任機関に進言することで合意
 a)(責任機関の)友好、協力関係の強化
 b) 各国の建築家の登録と建築家に対する教育についての情報等の交換
 c) 登録機関の連携の強化
 今後のあり方については以下の点を議論するためWGを設置することで同意
 d) フォーラムで議論された項目に関して地域での連携を緊密化
 e) 相互認証に必要な基準や仕組のあり方の探査

豪州・ニュージーランドでの建築家業務の実態

 会議終了後、当センターで主催者から紹介を受けて、2国の主要都市であるシドニー、オークランドの両市の建築事務所を訪ね、会議の場ではなかなか入手困難なそれぞれの国での建築家及び建築事務所のおかれている実態についてヒアリング調査を行ってまいりました(注2)。以下はその中で得られた主要な情報です。
1)オーストラリアではつい二、三年前から各州認定の建築家資格について申請が本人からあれば資格を獲得した州以外の建築家資格も授与されることになり、今後は業務内容について少しづつ異なる規定を全ての州で統一して連邦資格にしようと連邦政府が乗り出し調整を行っている最中だということでした。
2)またこの動きの中で、連邦政府は前述の建築家に対する継続教育を義務化しようとしていますが、いくつかの州が強く反対を表明しており極めて困難な状況ということでした。理由の一つに豪州は広大な土地であり、シドニーやメルボルン等人口が集中している都市以外の閑散地では建築教育が行われている大学もなく、継続教育に出席するのに膨大な時間と経費がかかるということです。この点に関しては我が国より国土面積が小さいニュージーランドでは状況が異なり、今まで義務でなかったものを簡単には義務化が難しく、他資格の状況をにらみつつ機が熟するまでもう少し時間がかかるという感触でした。
3)オーストラリア、ニュージーランドいずれも建築家に業務独占がなく、「建築家」資格をもっていないエンジニアやドラフターといった方々も設計等、我が国では建築士に業務独占が認められている職務ができます。実際シドニーでは年間の設計件数の約半数しか「建築家取得者」によって行われていないということで、インタビューした中堅建築設計事務所の方は日本の資格者の独占が非常に羨ましいと率直な所感を述べられていました。
4)また現在両国とも新しい形態の契約が施主と施工会社の間で採用されつつある状況で、金融リスクをいかに小さくするか、三者それぞれの責任の明確化等、我が国でも今後積極的に情報を入手し、勉強していく必要を痛感させられました。この点に関しては今後も継続して注目していく必要があります。
5)両国では1990年より相互認証を進めていますが、どちらかというとオーストラリアの建築家が積極的に相対的に市場の小さいニュージーランドに進出しているようです。両国はイギリス文化を基盤とした共通項の多い国ですが、それでも相互認証にたどりつくまでは幾多の議論を重ね、現在でも様々な協議を重ねているようです。強調していたのはやはり何でも一つのやり方に収斂させるというアプローチではなく、相違点をどう相互に「同種」と理解して、「違い」を乗り越えていくかということのようです。

おわりに

 駆け足ではありますが当センターが従事している国際活動のご紹介を入手した情報とともに執筆いたしました。今後もセンターでは建築士法を管轄している建設省建築指導課と連携をとりつつ、我が国の建築士資格を取得されている方々、そして広くそのサービスを享受する国民の利益が損なわれないよう他国の状況を正確に把握しつつ、国際相互のあり方について関係団体と相談しつつ議論を重ねていきたいと思っております。

注1)参加国:日本、中華人民共和国、フィジー、香港、インドネシア、パプアニューギニア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、ニュージーランドとオーストラリア。この他オブザーバーとして米国ハワイ州の学者とEU事務局の職員が参加した。ラオスも当初、出席予定であったが、急遽出席できないとの通知があった。また韓国とマレーシアは当初より参加を見送っていた。なお参加者は各国の建築家資格の試験登録団体であり、国によっては政府や関連付属センター、職能団体、建築家協会等であった。
注2)ニュージーランドではオークランドのJASMAX建築設計事務所に対してヒアリングを行った。

個人名に含まれる外字はJIS第一水準漢字及びJIS第二水準漢字の類似文字に置き換えています。

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