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公益財団法人 建築技術教育普及センター
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カリフォルニア州建築家資格試験

前 (財)建築技術教育普及センター建築技術者教育研究所主任研究員
現 人事院任用局次席試験専門官
 渡辺光明

「QUA クウェイ」NO.15(2000年)より

はじめに

 アメリカ合衆国で建築家の資格を得るには、一般的に、まず全米建築家登録協議会(NCARB)が実施する建築家登録試験(ARE)に合格しなければなりません。このAREは全米共通の資格認定試験ですが、アメリカ合衆国での建築家としての登録は各州ごとに行われるため、州によってはさらに付加的な要件が課されているところもあります。例えば、アラスカ州では極地工学についての履修を求めていますし、カリフォルニア州ではカリフォルニア州建築家委員会(CAB:California Architects Board)が実施する資格試験(California Supplemental Examination)にも合格しなければなりません。
 カリフォルニア州のこの試験は、カリフォルニア州の状況に応じて必要な建築の知識や技術を有しているか否かを確かめるためのもので、口頭試問によって行われます。カリフォルニア州がこのような独自の補足試験を行っている理由として、広大な面積、人口の多様さ、景観や気候の変化、高い地震頻度等により、建築業務を行うに当たって他の州とは違った独特の状況が生み出されていることが挙げられています。

テスト・プラン

 カリフォルニア州の建築家に特有な業務のリストとそれに必要な知識は、テスト・プランと称され、試験の開発の基礎となっています。このテスト・プランを作成するに当たり、カリフォルニア州で業務を行っている有資格建築家の建築業務全般に渡っての職務分析調査が1997年に行われました。これは、建築の専門家としての重要な業務と、過去5年間にカリフォルニア州でなされたプロジェクトでの頻度という二つの観点から行われ、33項目のリストが抽出されました。
 現在のテスト・プランは、この33項目のリストから、AREのための職務分析調査結果と重複する11項目を除いた22項目によって構成されています(表1)。テスト・プランの各業務は、次のように二つの基本的な領域と五つの分野に分けられています。また、試験での質問は業務の一つ又は複数に言及したものとなっていますが、必ずしも全ての業務が個別に試験として出題されるわけではありません。
 I建築家業務の構成
 A.専門家としてのサービス
 B.専門家の組織
 C.専門家としての責任
 II建築家としてのサービスの提供
 D.調査、設計分析、及び計画
 E.設計実施

(表 1)テスト・プランに含まれる22種の建築家業務

 1.事前設計サービスの範囲の決定
 2.敷地や施設に関係する自然環境及び構築環境に関する情報の範囲の決定
 3.どのような法律、規則及び基準等が適用されるかの決定
 4.プロジェクトの実現可能性分析の範囲の決定
 5.設計サービスの範囲の決定
 6.建築場面でのサービスの範囲の決定
 7.拡張されたサービス(施設管理、完成後の占有率の検討等)の提供についての決定
 8.施主と使用者との関係における建築家の役割の構築
 9.関連する法的機関と建築家との関係の明確化
 10.建築家業務を行うための業務管理システムの構築
 11.建築家としてのサービスの提供に対するカリフォルニア州建築家業務法の適用
 12.建築家業務に対する商取引法の原則の適用
 13.建築家業務に対する建築法の原則の適用についての理解
 14.専門家としての能力と経験の施主に対する提示
 15.継続教育のような専門家としての自己啓発活動への参加
 16.自然環境と構築環境との関係の評価
 17.構築環境と社会的な要因との相互関係の評価
 18.関連する法律、規則及び基準等の特定の条文の解釈と適用
 19.適切な建築システムの統合
 20.適切な建築資材の調整
 21.非構造的建築要素の選択と調整
 22.建築管理の実施

試験の形式

 試験は、設定された架空の状況についての口頭試問で、試験時間は約1時間です。この設定された架空の状況は実際の業務状況の短縮版を模擬的に再現したもので、文章と図面とによって構成され、プロジェクト・シナリオと呼ばれています。
 プロジェクト・シナリオは、通常、小規模の非居住プロジェクト又はより大きなプロジェクトの一部分についてのものであり、その書類は一般的に次のものとなっています。

  • プロジェクトの計画、敷地についての記述、及び建築家と施主に関する1ページの情報
  • 配置図、平面図、立面図、断面図、及び詳細図のような2~4ページの図面
  • 施主からの手紙、請負業者からの伝達事項、計画局からのメモ等、その他のプロジェクトに関する情報

試験の実施過程

 受験者には、試験に先立ってプロジェクト・シナリオ書類を検討する時間が20分間まで与えられます。この検討時間を使って、受験者は個別の質問が行われる以前に試験で提示される状況の全体像を描くようにしなければなりません。配布された書類は書き写すこともメモをとることも許されませんが、試験中は随意に書類を見ることが可能です。また、試験での質問はプロジェクト・シナリオの特定の詳細についての記憶を受験者に求めるものでもありません。
 なお、遅れてきた受験者は20分間の残りの時間に限って事前検討の時間が与えられ、事前検討時間終了後に到着した者には事前検討時間は与えられません。
 20分間の事前検討時間の終了後、書類は回収され、受験者は試験官の準備が整うまでその場で待機します。その間、他の受験者と書類について話し合うことは許されません。
 3人の建築家が試験官となり、個々のプロジェクト・シナリオについて、施主との契約から始まってプロジェクトの設計、建設へと進む通常の流れに従ってあらかじめ定められた質問をしていきます。試験官は順番に質問を行い、質問数は全体で22~26問となります。
 受験者の回答は、あらかじめ定められた基準に照らして評価されます。全ての質問がプロジェクト・シナリオの書類からの情報に依存するものではありませんが、多くの質問はプロジェクト・シナリオの特定の局面や特徴(例えば敷地の状況や計画で要請されていることや法的な関係等)に対する受験者の知識や理解の適用を求めており、適宜シナリオの状況を回答に盛り込むことが求められています。

採点と結果通知

 試験の評価過程が可能な限り客観的で統一されたものとなるように、標準化された採点手続きと合格基準が使用されています。それらはカリフォルニア州の建築家及び専門コンサルタントによる委員会が、カリフォルニア州で建築家業務を行うに当たっての最低限のレベルを示したものです。
 各試験官は、定義された評価基準を一貫して適用し、最低限の能力レベルが受験者によって示されているかどうかを決定できるように研修を受けており、独立して評価します。3人の試験官のうちの2人が評価基準と合致していると判断された回答が正解として判定されます。
 また、受験者には正しく回答した質問の得点が与えられますが、全ての質問が同じ配点とは限らず、正解した質問のポイントの合計が受験者個人の総合得点となります。総合得点が合格標準点に満たなかった受験者はもう一度試験を受け直さなければなりません。
 試験結果は、試験の約30日後に通知され、不合格者には試験に基づく診断結果が送られます。

プロジェクト・シナリオの例

(プロジェクトについての記述)

敷地:
 サンディエゴ市の波止場近くの商業地域で、角地にあって面積は13,200平方フィート
 1960年代の木造枠組みとスタッコによる平屋の建築物がある
計画:ベスト銀行の支店
 6,000平方フィートの建物全てを銀行が借りており、そのうちの4,200平方フィートを銀行自らが使用し、残りの1,800平方フィートを又貸しする予定である
 テナント部分の改修と外装直しを行い、屋根に2つのタワーを設置する
建築家:
 商業プロジェクトを専門に手がけている40人の社員からなる設計事務所の建築家
施主:
 ベスト銀行は成長が期待される地方銀行であり、これは同行との初めての契約である
図面:
 配置図/平面図、屋根伏図、南及び東の立面図

(質問例と回答ポイント)

Q.家具業者が取り付けを促進する意味であなたの建築図面に家具のレイアウトを含めるように提案してきました。この要請には契約上どのような問題がありますか。
A.・建築家が契約上の義務を負うのは施主に対してであり、家具業者に対してではない。
 ・契約上の範囲を超えた付加的サービスは施主の承認を得る必要がある。
Q.あなたの設計では新しい正面入口をエリアAの現在壁があるところに設置することになります。あなたが参照しなければならないカリフォルニア州建築法の2つの条文を揚げ、その理由を説明しなさい。
A.地震についての条文:有効な耐震壁が減少するため
 エネルギーについての条文:ガラス窓を通して熱の吸収排出が大きくなるため

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