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公益財団法人 建築技術教育普及センター
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米国におけるインターン建築家養成計画(IDP)について(その2)

(財)建築技術教育普及センター 建築技術者教育研究所
主任研究員 中村安伸

「QUA クウェイ」NO.29(2004年)より

1 はじめに

 前号(QUA No.28)で、米国におけるインターン建築家養成計画(IDP:Intern Development Program)と呼ばれる実務研修の概要について紹介しましたが、IDPの申請、審査等の具体的内容を2回に分けてご紹介します。

2 登録建築家となるための必須要件の一つとしてのIDP

 米国で登録建築家(各州ごとに登録)になるためには、一般に、NCARB(National Council of Architectural Regisitration Boards:全米建築家登録委員会協議会)の定める次の三つの要件が満たされなければなりません。

(1) 教育要件 米国のNAAB(National Architectural Accrediting Board:全米建築課程認定委員会)、あるいはカナダのCACB(Canadian Architectural Certification Board:カナダ建築資格委員会)が認定した5年制の建築系の大学、あるいは大学院で、建築系の専門職業学位(Professional Degree)を取得していなければなりません。
(2) 研修要件 NCARBが運営の事務局となり、AIA(American Institute of Architects:アメリカ建築家協会)等と連携して実施しているIDPと呼ばれる実務研修を修了していなければなりません。実施に当たっては、IDP監督者、IDP指導者と呼ばれる研修成果を評価し又は指導する専門家が必要です。IDPは、一般に(1)の教育要件を満たしていないと開始できません。
(3) 試験要件 NCARBが作成し、各州政府が実施しているARE(Architect Registration Examination:建築家登録試験)の全科目に合格する必要があります。AREは、教育要件及び研修要件を満足していないと受験することができません。

 州によっては、これらの要件とはやや異なる受験要件を定めている場合があります。すなわち、建築系の専門職業学位を取得していなくても、あるいはIDPを受けなくても、これに代わるものとしてその州政府が独自に定める要件を満足することで、その州の実施するAREの受験が可能な場合もあります。
 例えば、ニューヨーク州では、IDPによる実務研修の期間で標準的とされている3年間に対して、4年制大学の建築系の専門職業予備学位(Preprofessional Degree)取得者に対しては、経験のある建築家の適切な指導の下で5年間の実務研修を行いIDPを修了させることで、また高等学校の卒業生に対しては、12年間の実務研修を行いIDPを修了させることでAREの受験を認めています。しかしながら、これにより登録建築家になった場合は、その他の州での建築家の登録が、やや困難になる場合があります。なぜならば、多くの州では、登録建築家の要件として、前記の(1)~(3)を一般的な要件としていることが多く、たとえば教育要件を満たさない場合には、前述のニューヨーク州の例のように、それに相当すると認められる経験等があることを、申請する州の基準に従って示すことで認める州もありますが、認められないとする州も多いからです。(注1)

(注1) NCARBでは、米国内の各州の登録建築家が、他州においても統一的な手続きで互恵登録が進められるよう、NCARB証明書(NCARB Certificate)をもとにして制度の整備を図っています。例えば、NCARBの求める基準を満たす登録建築家は、NCARBに申請することによりNCARB証明書を取得することができ、これを申請する州の建築家登録委員会に提出することで、一般に登録手続きが容易になります。
 NCARBが定める教育要件を登録建築家が満たしていない場合には、NCARBの「広範囲な実務経験を持つ建築家」(BEA:Broadly Experienced Architect)制度に基づいて行われる書類審査及び面接に合格することによって、同じくNCARB証明書を取得することができます。
 州によっては、このNCARB証明書のほかに、たとえばネバダ州やアイダホ州のように地震に関する知識を追加要件としたり、ニューメキシコ州やオクラホマ州のように法律の試験を課すところもありますが、NCARB証明書及びこれらの条件を満たすことにより希望する州の登録建築家になることが可能となります。
 この「広範囲な実務経験を持つ建築家」(BEA)制度の内容は、NAABの専門職業課程の認定を受けることができない4年制大学の建築系の専門職業予備学位を取得している登録建築家に対しては6年間、建築系以外の学士号を取得している登録建築家に対しては8年間、そして学士号を取得していない登録建築家に対しては10年間、申請者それぞれの有する実務経験が専門職業学位相当かどうかを、書類及び面接によって審査するものです。申請者の大学等での科目の履修状況についても審査が行われますが、その手順は、NAABが、自らが運営する「建築家のための教育評価業務」(EESA:Education Evaluation Services for Architects)に基づき、申請者の学歴と専門職業学位課程とを比較してゆくものです。この手続き全体が完了するまでには、通常9か月から1年程度かかりますが、このうち、「建築家のための教育評価業務」(EESA)には3か月を要しているようです。NAABは、この手順を、米国やカナダ以外の大学等の学歴を持つ申請者の教育要件に関する審査にも使用しています。

3 IDPの申込み及び手数料

インターン建築家は、一般に、IDPを修了したとき、その修了を公式に証明するNCARB協議会記録(NCARB Council Record、以下、協議会記録と称します)を取得するように、州の建築家登録委員会から求められています。この協議会記録を得るためには、インターン建築家は、IDPの開始に当たってNCARBに「協議会記録/証明書申込書」に基づく申し込みを行いますが、この申込書において学歴や勤務先、建築実務以外の経験も含めたすべての職歴等を記入し、かつ表1に示す手数料を納付する必要があります。
 なお、この申込書は、登録建築家がNCARB証明書を取得するためにも、使用されます。この場合には、インターン建築家と同様に学歴や職歴等を記入するほか、AREなどの合格記録や州の登録建築家としての登録状況等も記入することとなります。



手数料(注2)
1 協議会記録の申込み(注3) 285ドル(685ドル)
2 3年を超える協議会記録の年間維持手数料(注4) 50ドル
3 協議会記録の追加送付手数料(注5) 270ドル
4 不利益処分記録の有無証明手数料 25ドル

(注2) 記載されている手数料は、2003年7月1日から適用されています。
(注3) 同手数料には、協議会記録を開始してから最初の3年間維持するための手数料と、一つの州の建築家登録委員会に協議会記録を送付する手数料の両方が入っています。なお、送付を申込書受領後12ヶ月以上経過してから行う場合、同手数料は、カッコの左側(カッコなし)の金額となり、12ヶ月以内という短期間に行う場合は、カッコ内の金額となります。なお、大学等を卒業してから6ヶ月以内の申込の場合は、申込み時に50ドルのみの納付を選択することができます。この場合、残金等は協議会記録の送付前に清算することとなります。
(注4) 協議会記録を開始してから3年経過後に、協議会記録をさらに1年間引き続いて維持するための費用です。
(注5) インターン建築家が、複数の建築家登録委員会に協議会記録の送付を希望する場合、追加する州一つ当たりに必要な費用です。

 NCARBは、この申込書を受領すると、IDPの開始要件について学歴などの審査を開始し、根拠も妥当と判断した場合は、雇用証明書とIDPトレーニング・ユニット報告書、学歴証明申請書、IDP監督者への依頼書及びNCARBへの返信用封筒等の一式が8週間から10週間でインターン建築家に送付されます。
 インターン建築家は、自らの研修状況を報告するために、4か月ごとに雇用証明書及びIDPトレーニング・ユニット報告書を作成して、毎回、IDP指導者にIDPの進行状況等について助言を受けた後、IDP監督者を経由してNCARBに送付することが義務付けられています。これらの書類に記載されている事項の主なものを、表2及び表3に示します。

4 おわりに

 今回は、はじめにNCARB が運営しているIDPが、米国の登録建築家となるための必須要件の一つとして広く受け入れられていることについてご紹介しました。
 また、NCARBが運営しているNCARB協議会記録は、IDPの履修状況を証明するものとして使用され、またすでに実務に就いている登録建築家が他州での登録を得るときに使用するNCARB証明書を得るためにも使用されています。
 このように、米国の建築家法は、それぞれの州が主体となって運営しているものの、各州の建築家登録委員会の代表者を委員とするNCARBが、各州の制度のとりまとめを行う公的機関として、なるべく同様かつ公正な手続きで建築家のさまざまな経歴を評価、記録してゆこうとしているように思われます。
 次回は、今回の続きとして、IDPの履修、審査その他の事項につきましてご紹介いたします。

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