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米国における建築家登録試験の受験料の引き上げとテキサス州の対応- 建築家登録試験のコンピュータ化をめぐる動き -

 (財)建築技術教育普及センター建築技術者教育研究所主任研究員 渡辺光明

「QUA クウェイ」NO.8(1998年)より

<はじめに>

 アメリカ合衆国における建築家登録試験(ARE)は、各州において州法または州の建築家登録委員会の規定により行われている(注1)が、現実にはすべての州(及びワシントン,DCを含む5つの地域)において全米建築家登録委員会協議会(NCARB)の作成・管理する試験が採用されている。
 さて、1997年2月より、このNCARBのAREは全面的にコンピュータ化された。これは、それまでの紙と鉛筆による試験から、学科及び製図のすべての試験について、受験要領から問題の選択・提示、解答、採点に至るまでをコンピュータによって行うものである。NCARBでは、両者の試験は本質的な測定対象は異ならないものの、測定の精度や受験者の負担等の違いがあることから、両者を併存させる措置は取らなかった。そこで、各州ではコンピュータ化されたARE(C-ARE)を実施するにあたり、州法又は委員会規定の改正を行った。しかし、875名の受験有資格者を抱えるテキサス州ではこの改正がなされず、C-AREの導入されない(したがって全米共通の建築家登録試験の実施されない)唯一の州となってしまった。
 この事態を打開すべくテキサス州建築試験委員会(Texas Board of Architectural Examiners:TBAE(注2))が議会との折衝を重ねた結果、1997年9月1日よりテキサス州でもC-AREを実施できるようになったが、本報告は、この間の経緯をTBAEのホームページ等をもとにまとめたものである。

1.コンピュータ化に伴う受験料の引き上げ

 これまでのAREでは、9区分すべてを受験した場合の受験料はNCARBに対する485ドルに各州の委員会が独自に課す管理運営費を加えたもので、テキサス州の場合は525ドルであった(モンタナ州の329ドル~ニューヨーク州の1100ドル)。C-AREでは、NCARBに対する427ドルに試験実施料の553ドルを加えた980ドルを基本料金として、これに各州の委員会の管理運営費を含めた金額が受験料となる。テキサス州では40ドルの管理運営費を加えた1020ドルである。
 この受験料の引き上げについて、NCARBでは、その金額が効率化を図った結果であること、受験料だけでなく運賃や宿泊費等を含めた総費用を比較すればこれまでと大差のないこと等から、合理的であると述べている。

2.テキサス州議会の反応

 NCARBによるAREのコンピュータ化に対して、加盟する州の委員会からは高齢者等CADに不慣れな者にとって不利にならないか、受験料が約2倍となることによる受験者の負担増等について懸念が表明されていた。
 TBAEでは、この懸念を踏まえた上で、信頼性の向上、実施時間の短縮、実施回数の増加等のメリットを考慮し、C-AREの導入を図ることとした。しかし、受験料については、州の建築業務法に上限が、また、一般歳出法に当該年度の料金が定められており、これを超えた金額の設定に当たっては法の改正が必要であった。そこで、1997年1月21日、受験料の上限を定めた規定を廃止する建築業務法の改正案が上院に提出された。
 2月上旬、法案は上院を通過し、下院の予算委員会にまわされた。
 ところが、下院は、ヒューストン大学の建築学科を卒業し、自らが現在建築家のインターンの立場にある民主党の下院議員ジェシカ・ファラーを中心に、受験料引き上げに反対の立場を取り、次の事項がTBAEに要請された。

  • 州の大学等の研究機関と連携して、NCARBと同等の州独自のAREの開発を目指すこと
  • NCARBに対して財務・会計についての詳細な情報の開示を求めること

3.下院の動きに対するTBAEの対応

 下院の決定を受けたTBAEでは、州内で試験が実施されない場合を想定して、他の州で受けた試験でもテキサス州での資格が認められること、他の州で受験する場合の留意点等を受験有資格者に示すとともに、NCARBに対し、財務状況に加え、これまで行われていた紙と鉛筆による試験の詳細な費用明細についての情報提供を要請した。
 また、一方では州内でAREを実施すべく、3月上旬に開催された南部10州が所属するNCARB南部地域会議において、NCARBに対する次の3つの決議案を提出した。
 (1)試験の経費を詳細に検討し、できる限り節約を図ること
 (2)NCARBの財務・会計情報をすべての州委員会に対して開示すること
 (3)すべての州がコンピュータ化AREを実施できるようになるまで、これまでの紙と鉛筆による試験を年に2回、485ドルで実施できること
 このうち(1)及び(2)が可決され、(3)は否決された。

4.予算案への附則

 3月19日、下院はTBAEの予算案にファラーの起草した次の内容の新しい附則を設けることを全会一致で可決し、両院協議会に提出した。

  • 建築家登録試験について、9月1日までに、下記の方策が一つも実行されなかった場合、登録と更新用の予算の支出は認められない。
    (1)合理的と認める金額まで受験料を引き下げる。
    (2)紙と鉛筆による試験を525ドルで継続する。
    (3)引き上げ分を寄付金、補助金等で相殺する。
  • TBAEは、テキサス州の大学あるいは試験実施会社と連携してNCARBの試験と同一のレベルを維持する試験を開発することとする。

 紙と鉛筆による試験の継続や引き上げ分の相殺は極めて困難であり、また、テキサス州独自の試験の開発・実施には、100万ドル以上を要するため、その費用を受験者負担とすると、その受験料はNCARBの試験よりも高額となってしまう。
 そこで、4月上旬、TBAEは予算について両院協議会と折衝し、結局次の内容の附則がTBAEの予算案に加えられることとなった。これは、事実上TBAEに対して9月1日以降C-AREの実施を認める方向で解決が図られたことを示している。

 (建築家試験受験料)
 TBAEは次の条件が満たされるならばAREの受験料を525ドル以上とすることができる。
 1)NCARBの試験の受験料を引き下げるようにTBAEが積極的に活動すること
 2)各会計年度の8月1日までに、下院予算委員会に対して、TBAEが受験料の引き下げについてどのような活動を行ったか、及び各会計年度の9月1日をもって有効となる受験料について報告すること

 ただし、下院予算委員会が、TBAEは受験料の適正化の努力を怠っていると認めた場合には、TBAEは州独自の建築家登録試験の開発に踏み出さなければならない。

5.NCARB年次総会での決議

 前述のように、C-AREをテキサス州で実施できるかどうかは、TBAEの活動次第ということになった。
 TBAEは、当面の引き下げ案として、これまで各試験に対して課していた40ドルの管理運営費の撤廃と、試験は受けないけれどもそれまでの受験成績は残しておきたいという者に請求している年間記録管理料の50%引き下げを行った。
 また、6月に開催されたNCARBの年次総会において、C-AREの費用削減を求めることを狙いとする次の内容の決議案を、南部地域会議と西部地域会議との共同で提起した。

 (決議案97-12:受験料)
 NCARBは、C-AREの費用の問題について、試験における主要な改良点を失うことなく、受験者への経済的な影響を減じることができるかどうかを決定するために、節約可能な経費を検討し、1998年の年次総会で結果を報告する。

 この決議案は、全会一致で採択され、これによってNCARBはC-AREへの変更に関わる諸費用についての再検討結果を、1998年度の年次総会で報告することとなった。

6.報告書の提出とC-AREの実施

 8月5日、TBAEは下院予算委員会に対して、これまでにTBAEが行ってきた対応策についての報告書を提出した。
 この報告書には、NCARBは受験料の引き下げを行っていないが、現時点では他に適当な解決策が見つかっていないため、C-AREの実施を余儀なくされていること、TBAEが管理運営費を削減したことによって、テキサス州ではAREの受験にかかる総費用が1020ドルから980ドルに引き下げられたことなど、受験料の引き下げの努力を続けていることが示された。
 この報告書が受理された結果、テキサス州でも1997年9月1日より980ドルでC-AREが実施されることとなり現在に至っている。

<おわりに>

 AREの受験料の引き上げについて、NCARBによれば、AIAのプロジェクト・チームとも協議し、AREのコンピュータ化に伴う受験料の引き上げ要因についての最終的な理解が得られたということである。
 しかし、TBAEが所管する他の2つの登録試験である景観建築家登録試験とインテリアデザイナー登録試験がコンピュータ化されておらず、その受験料がそれぞれ480ドルと470ドルであることから、試験地に近い都市部に住む受験者がC-AREの受験料を高額と感ずるのも否めないと考えられる。
 この論議は、一応の決着をみたが、必ずしもこれで最終的に終結したとは考えられない。TBAEはテキサス州行政機関廃止法の対象機関であり(注3)、今後の活動如何によってはその意義が問われかねないことから、1998年度の年次総会におけるNCARBの報告とそれに対するTBAEの対応に注目していきたいと考えている。

(注1):一般に、建築家に限らず何らかの職業資格を管理する各州の委員会は、その独立性に差があり、料金や手数料を徴収しこれを自由に使用できる委員会もあれば、料金や手数料を徴収しても州政府の承認がなければそれを使用できない委員会もある。
(注2):TBAEは、州法に基づいて設立され、テキサス州における建築家(Architect)、景観建築家(Landscape Architect)及びインテリアデザイナー(Interior Designer)の登録試験、登録の更新及び継続教育プログラムの管理運営等を行う機関であり、その活動費は一般歳出法によって規定されている。
(注3):TBAEはテキサス州行政機関廃止法(サンセット法)の対象となっており、原則として2003年9月1日(テキサス州の機関の会計年度は9月1日から翌年の8月31日まで)をもって廃止されることになっている。TBAEは、2001年の10月30日までに報告書を議会の行政機関廃止勧告委員会に提出し、その機関としての有効性について審査を受けなければならない。

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