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公益財団法人 建築技術教育普及センター
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米国における建築家継続教育制度について

 (財)建築技術教育普及センター建築技術者教育研究所長 小泉重信

「QUA クウェイ」NO.5(1997年)より

1 継続教育必要性の背景

 欧米における専門職能に関する資格制度やそれぞれの職能団体の活動の実態について知る上で、近年急速に関心が高まってきているものの一つに継続教育が挙げられます。
 資格制度は法律で定められている場合と関係する職能団体の社会的な制度にとどまる場合とがあり、国によって多様です。
 一般に資格制度を形成している段階として第一に学校教育制度、第二に実務訓練制度、第三に試験・認定・登録制度、第四に専門職能に関する能力維持のための継続教育制度の四つを指摘することが可能です。
 このうち最後の継続教育制度について、米国の状況を紹介しましょう。
 継続教育という言葉は、良く使われるようになりましたが、必ずしも用語が定まっているわけではありません。全米建築家登録委員会評議会(The National Council of Architectural Registration Boards,以下NCARBという)では専門職能啓発プログラム(Professional Development Program:PDP)と称し、アメリカ建築家協会(The American Institute of Architects,以下AIAという)では、継続教育システム(Continuing Education System :CES)と称しています。
 ちなみに英国では継続職能啓発(Continuing Professional Development:CPD)という語で統一しています。
 科学技術が著しく発展し、社会が複雑になるにつれ、建築分野の変化は日進月歩であり、常に最新の知識、技能、管理運営等の総合的な能力がプロフェッションに必要とされます。自己が受けた学校教育と経験だけでは全く足らず、常に学習が必要となります。専門職能者は、当然、自己に関係した分野における専門的な最新の動向に関心を払うのは当然ですが、専門分化が進めば進むほど、どうしても関係する範囲が狭くなるおそれは十分にあります。
 このため、資格を取得した後でも、常に最新かつ基本的な分野での能力を常に維持し更に一層の向上に努める必要性は、ますます高まっているといえます。

2 学習か教育か、自主か義務か

 継続教育に関係の深い言葉として生涯学習があります。後者は、長寿社会にあって一般人に対しても使われる言葉であり、いきいきとした人生を送る上に大切な一つの柱として強く叫ばれるようなっています。継続教育も生涯学習の一部として考えられますが、学習は受ける立場の主体性が強いのに対し、教育は指導する立場の主体性が強く出ています。
 専門職能者は、本来、自己研鑽を積む意志の高い人々の集団であるといえますので、多くは、自由にしていても、資質の向上に励むものと考えたいところです。これが全ての人に当てはまれば、あえて継続教育の必要性はありません。
 しかし、残念なことに、建築の瑕疵(かし)は頻繁に生じ、更に米国では、社会風土の違いもありますが、訴訟が後を絶ちません。このような事象を少しでも少なくし、顧客の要望にマッチするよう建築物の質水準を上げるため、継続教育の義務化を進め始めてきたわけです。
 教育の効果を上げるには、学習側の能動的な活動が大切です。受動的なものだけでは、効果が半減するからです。また、自主的学習は、本人の主体性に依存するので、能動的といえますが、良い指導がないと非効率と偏りが生ずるおそれも多くなります。他方、教育の義務化は、分野の偏りを排除することはできますが、関心を十分に呼び起こし、積極的な学習効果を上げることができるかどうかはわかりません。受ける側の認識の差に依存してしまうからです。義務化と自主性とは、それぞれ一長一短があることがわかります。
 また、一口に義務化の規制といっても、いろいろな段階のものがあります。最も軽いものでは努力義務に過ぎないものもあり、教育学習内容を具体的に詳細に定めた強制的義務化のものもあります。
 ちなみに日本の建築士法第二十二条では、「建築士は、設計及び工事監理に必要な知識及び技能の維持向上に努めなければならない」と努力義務が課せられているに過ぎず、罰則の規定はありません。

3 資質能力向上の内容と目標水準

 継続教育に関する教育の内容とその水準をどう設定するかは、かなり困難なことです。それは、人によって既に取得している知識や技能の内容もその水準も多様であり、現在のレベルより、更に上の水準への指向を皆が志しているからです。
 継続教育は自主学習に重点を置くならば、個人の自由な意思でその分野の内容と水準を選択できるメリットはあります。この場合、現有している能力水準の一歩上を目指すことが可能です。
 一方、義務教育に重点を置くならば、すべての人に共通に必要な分野で、その水準も基本的なレベルに止まることになりましょう。
 米国の場合、後者については、人々の健康、安全、福祉に関する分野(H・S・W)を主要な対象としている点が特徴です。

4 NCARBの継続教育制度

 米国は、州が基本的な行政単位となっている連邦制であるため、建築家、技術者、景観建築家、インテリアデザイナー等の専門職能資格及びこれらの人々の義務法等はすべて、州法に規定されています。
 連邦としては、できるだけこれらの規定を統合化しようと、全国団体は、モデル法やモデル規定を定め、これらに準拠するよう各州に提示しています。
 特に異なる州をまたいで複数の州で業務を行う人や法人は、ごく普通であり、その相互間に、すべての規定が異なっていては、業務遂行上支障が多く、経済的、社会的にも非効率性は否めません。現在、国際化が叫ばれている中で、国際的な相互性と考えられているReciprocityという語も、こと米国にあっては、むしろ州間の相互性と認識されているくらいです。従って、米国が唱える国際相互性と州際相互性とは、区別して理解する必要があります。
 ところで、各州の法制度は、大きくは他の州のそれとかなり似通っておりますが、子細に見るとそれぞれの州で微妙に異なっているようです。もちろん、広大な米国のことですので、自然条件はもちろん、社会的条件、人種問題等いろいろ特徴があり、完全に一本化した制度で統一するのは大変でしょうが、あまり多様であっては、業務遂行上、交流の支障になってしまうおそれはあります。今後は次第に統一化の方向に向かうものと思われます。
 NCARB(評議会)は、建築家の試験、相互登録、教育基準等の統一化に向け1920年に設立された機関で、アイオワ州の公益法人として認められています。NCARBの会員は、50州の他、ワシントンDC、グァム、北マリアナ諸島、プエルトリコ及びヴァージン諸島のすべての建築家登録委員会(State Board of Architects)から構成されています。
 いくつかの州のメンバー委員会は継続職能啓発の全国的なプログラムの開発と実施をNCARBに求めていました。これを受けてNCARBは、表1のとおり、継続教育制度の創設と変遷を経て、今日に至っています。1977年に建築家能力啓発証明プログラム(ADVP)を提案してから既に20年が経過したことになります。

表1 NCARBの継続教育制度の推移
1977年6月 職能行動委員会が全国的システムとして「建築家能力啓発証明プログラム(The Architect Development Verification Program:ADVP)」構想を提示する。
1978年6月 ADVPの最初のパイロットテストの採用がNCARBの年次大会で否決される。
1992年6月 継続職能啓発(CPD)委員会はADVPの活性化と職能啓発モデル法の検討を始める。
1993年9月 理事会がADVPのモノグラフ試験の合格基準を設定する。
1993年11月 モノグラフ第1号「省エネ建築」を発行。
1994年6月 CPD委員会はモデル法及びモノグラフテーマはいづれも健康、安全、福祉関連のものとすべきと勧告。
1994年9月 理事会は、各モノグラフ試験に合格した場合継続教育1単位(CEU)とし、10時間の履修相当と見なすことを決定。
1994年10月 モノグラフ第2号「室内環境」発行。
1995年6月 理事会は、登録更新時における継続教育制度の義務化を盛り込んだモデル法案の策定を特別委員会に付託する。
1995年9月 モノグラフ第3号「地盤条件」発行。理事会はADVPをPDPに名称変更。
1995年12月 AIA/CESは、NCARBの各モノグラフ試験合格者はCESのレベル3に相当し、履修単位30点を取得したものとみなすことを認める。
1996年6月 CPD統合システムの提案を承認し、モデル法は年間12職能啓発単位(PDUnits)、うち8PDU(8時間相当)を公共の安全性確保の課題に当てることを要求。
1996年8月 モノグラフ第4号「建築防火」発行。
1997年3月 CPD委員会はPDPの役割と「健康(H)、安全(S)、福祉(W)」の定義を定める。
1997年7月 モノグラフ第5号「耐風設計」発行。
1997年12月 AIAメンバーに課せられた義務的継続教育(CES)の期限が一巡する。

 当初の提案は、全国的に賛同を受けることなく、しばらく凍結されてしまいましたが、1992年に至って、再度その必要性が認識され、CDP委員会を発足し、翌1993年11月に、特定テーマの学習テキストであるモノグラフ第一号が「省エネ建築」を扱かって発行され実行に移されました。モノグラフには小テストが附属され、答案をNCARBに送ると、3週間以内に採点され、80%以上の成績であると合格の通知が応募者に出されるものです。この公式な証明書は建築家が、各州のメンバー委員会に対し継続職能啓発を実施している証拠として提出することができるようになっています。
 継続職能啓発に必要な履修単位数や、資格登録の更新期間は、州によって若干異なっていますが、NCARBは、どの州においても必要とされる基本的な能力で、必ず知っておいてもらわないと困る人々の健康、安全、福祉の分野に重点を置いてモノグラフを作成しています。1997年3月には、健康、安全、福祉の定義を明確化しました。まず、「健康(H)と安全(S)」の主題とは、人工環境及び自然環境の中で、病気、危険、損害、傷害の物理的及び心理的危険から、顧客及び一般の人々を直接的に保護する建築業務に関することとし、「福祉(W)」の主題とは人工環境及び自然環境の中で、顧客及び一般の人々の社会的、経済的及び精神的安寧を直接的に高揚する建築業務に関することを指します。
 そして具体的に、今後のモノグラフで取り扱う予定のテーマは次のとおりです。

(1)「健康と安全」分野

 ア.安全環境――事故防止、防犯、建築物安全、非常時システム
 イ.設備システム統合――空調設備統合、動力、照明、構造システム障害
 ウ.複合被害軽減――ハリケーンと竜巻、地震と洪水
 エ.設計効果――敷地計画、特殊気象
 オ.偶発的エンジニアリング――単純構造設計
 カ.建築瑕疵の事例研究――設計瑕疵、構造瑕疵、施工瑕疵

(2)「公共の福祉」分野

 ア.持続可能な建築――経済的実現性、ライフサイクルコスト、緑化設計、環境影響
 イ.コミュニティサービス――住民同意建築物、公益団体サービス、市民責任
 ウ.建築家のためのコミュニティ計画――都市計画・設計、地域計画・設計
 エ.施設性能基準――照明基準、音響基準、アクセス基準、安全基準
 オ.社会的運営建築――取得容易住宅、高齢者居住設計指針、女性避難所設計指針、刑務所設計指針
 カ.プログラミング――計画範囲、計画予算、施設需要、計画スケジュール
 キ.事前設計サービス――財政的可能性、市場分析、規制適格性
 ク.保全と再生――適応型再利用、歴史的重要性、伝統的建築材料、確実な復元

(3)「選択性テーマ」分野

 健康・安全・福祉以外の分野のテーマは選択性とし、NCARBのモデル法では、全体の12時間に対し、8時間を健康・安全・福祉に、その他に4時間を当てることとしています。

選択性テーマの例

 ア.プロジェクト発注方法――設計/入札/施工、デザインビルド、CM、国際業務
 イ.設計チーム調整――施工管理、プロジェクト予定策定、コンサル任務
 ウ.ビジネスとしての建築――意思伝達技術、実務経営、時間管理、財務管理、危機管理
 エ.バーチャルオフィス――サイバー業務、電子技術、高生産性

 NCARBの継続教育制度は1993年に実施され、1995年に名称変更し、専門職能啓発プログラム(PDP)となりました。
 学習テキストであるモノグラフの販売は急速に延び、1997年で6千部、1998年には1万部に達するだろうと見込まれています。登録建築家の認識が高まってきたと同時に、各州でも登録更新時に継続教育の実行を義務づける方向に徐々に変わってきていることが反映されたものと思えます。

5 AIAの継続教育制度

 建築家の職能団体であるAIAは、文字通り継続教育システムであるAIA/CES(Continuing Education System)を1995年1月から実施し、会員に継続教育活動の記録をとることを義務化しました。これに至るまでは1992年の総会で決定し、1993年からパイロットスタディを行い、オクラホマ大学の継続教育カレッジをセンターとして契約し、すべて自動的な記録管理により学習の成果情報を一括管理させています。

(1)履修方法

 あらかじめAIAに登録してあるプログラム供給者が提供するプログラムに参加するかまたは自己申告により学習単位(Learning Units,LUs)を取得する方法をとります。
 プログラム参加方式の場合、その供給者は、プログラムが完了すると、参加したAIAの会員の出席状況等を2週間以内にセンターに報告するよう求められています。
 自己申告方式の場合は、次の二通りの方法があります。
 第一は完全に自分で企画した学習活動で、読書、ビデオ、CD-ROM等多様なメディアを利用したものが含まれます。内容の質評価としては次の4つを自問し、答えが前者であることを必要としています。(a)計画的な学習活動であるか否か、(b)活動意図は教育的か単に操作的なものか、(c)自分にとっての新知識か、他人との共有か(d)新知識を業務にどう適用するか
 この方式の履修では最低3時間必要です。注意すべきことは、自己企画学習は「人々の健康、安全、福祉(HSW)」の履修単位にはカウントされない点です。
 第二は体系的自己申告プログラムによる履修方法です。プログラムの供給者がAIAの登録業者ではないが公的な機関が体系的に構成したプログラムへの参加による方法です。参加した証拠となる書類は、州から資格更新時に要求される要件の一つとして有効となります。会員が学習活動の成果を定められた様式に記載し申告すると個人別の成果証明書に記載されることになります。履修単位は、学習に要した時間数に、活動の質レベルに応じて定められた三種の質レベル点数を乗じて計算されます。

(2)履修の質レベルと単位数

 学習の質レベルを定める等級は次の3つに分かれます。

 ア.レベル1(受動的)――専門職能的目的と方法を有するすべての活動。読書、作品分析、講演会出席等(最低50分)
 イ.レベル2(相互的)――参加者相互に重要な影響を与え合う学習で、円卓会議のようなもの(最低50分)
 ウ.レベル3――参加者の学習進歩に関し、深化とフィードバックを折り込んだもの(最低2時間)

 以上の三種のレベルのどのような組み合わせを選択しても良いとされています。
 従ってAIA・CESが要求している36単位を取得するには、レベル1のみでは36時間、レベル2のみでは18時間、レベル3のもののみでは12時間が必要となります。
 AIAの会員は、CES制度を実施した1995年から1997年末までの3年間にすべての会員が履修単位36単位を習得しなければならないことにしましたので、今年末が一巡する時期にあたります。翌1998年以降は、毎年36単位ずつ修得する義務が課せられています。
 単年度内に過剰に単位を取得した場合はその翌年に限り最高36単位繰り越しすることができます。また履修単位が不足した場合、次年度に埋め合わせることが可能です。更に次年度に再び単位不足となれば、会費滞納者と同様に現資格の是非について審査されることになります。
 個人の履修単位数の状況は、会員番号によりAIAオンラインで把握できます。

(3)履修免除

 凖会員や名誉会員はCES履修は免除されていますが、自己の利益と職能の利益のためになるべく参加するよう勧められています。
 また、AIAの非会員やインターン生も履修できる途を開いています。非会員の場合は75米ドルでCES履修の記録をセンターで管理してくれます。

(4)年間36単位取得する10の方法

 ア.AIA全国大会への出席
 イ.AIA教育集会、地域会議への出席
 ウ.CSI教育集会への出席
 エ.機関紙(AR)の指定特集記事の講読
 オ.職場での昼休学習会への出席
 カ.CES登録供給者の提供プログラム探索
 キ.教育または新法規・設計・構造調査に要した時間の記録
 ク.NCARBモノグラフの完読とテストの合格
 ケ.事務のコンピュータ化の学習と記録
 コ.「建築家学習情報源」AIAの自己学習用教育資材の利用

6 各州における制度の義務化

 前述したように、米国の建築家、技術者、インテリアデザイナー等の職能に関する法律は、各州ごとに定められています。従って州によりその内容に若干の違いがあります。
 継続教育についても、州法に、更新時の要件として義務化を明定しているもの、州の建築家登録委員会が義務化を定めることができると謳った州、何も明定がない州等いろいろです。
 NCARBのPDP、AIAのCESはいずれも全国的な機関として継続教育の義務化を定め、その実行を奨めていますが、これらの団体の活動は、法制的な強制力を有しているわけではありません。各州の法制の内容によって実質的な強制力が働くわけです。
 継続教育の義務化の進捗状況は表2のとおりです。

表2 継続教育義務化の州とその必要時間数

州名 実施時期 必要時間数 更新年数 年間換算時間数
1 アイオワ 1978年 24 2 12
2 アラバマ 1994年 12 1 12
3 フロリダ 1995年 20 2 10
4 カンサス 1996年 30 2 15
5 サウスダコタ 1997年 30 2 15
6 アーカンサス 1998年 12 1 12
7 ミネソタ 1998年 24 2 12
8 ウェストバージニア 1999年 未定 2

 最も古いのはアイオワ州で既に1978年に実施しております。次いでアラバマ州が1994年、フロリダ州が1995年実施に踏み切りました。1996年にはカンサス州、1997年にはサウスダコタ州、1998年からはアーカンサス州とミネソタ州も加わる予定です。
 更新の期間は単年と2年間との二種がありますが、年平均で換算した継続教育履修の時間数は12時間のケースが最も多く、最小10時間・最大15時間の範囲にあります。
 各州は、固有のガイドラインと要求条件を設定できる法律的権限を有していますが、実態は全国的にほぼ類似の内容となってきているようです。しかし、一部の州では継続教育のこのようなやり方に懐疑的な意見をもっているところもあるようです。形式化することに対する批判と思えます。

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