このページの先頭ですサイトメニューここから
このページの本文へ移動
公益財団法人 建築技術教育普及センター
  • English
  • サイトマップ

本文ここから

米国におけるインターン建築家養成計画(IDP)について

(財)建築技術教育普及センター
建築技術者教育研究所

「QUA クウェイ」NO.28(2004年)より

1 はじめに

 米国(米国領を含みます)においても、建築家を志す学生は、建築系の大学等を卒業した後、就職した会社でインターン建築家として実務研修を受け、学校で受けた教育と実務との間の架け橋の部分を実習してゆくこととなります。
 米国においては、建築実務を行うための免許(登録とも呼ばれます)制度は、各州等がそれぞれ運用しています。そのため、それぞれの州において、建築家制度にある程度の差異が認められます。インターン建築家に課せられる研修制度においても、州によっては、これからご紹介するインターン建築家養成計画(IDP:Intern Development Program,以下IDPと称します)をそれ以外の制度と併用して運用している州があったり、あるいはIDPに直接には定められていない最短の研修期間について3年あるいは2年と定めている州があるなど、若干の差異がある場合もあります。
 このように、米国におけるインターン建築家制度は、各州の建築家登録委員会が運用していますが、この制度のひな形は、NCARB(National Council of Architectural Registration Boards:全米建築家登録委員会協議会、各州の行政組織である建築家登録委員会の委員等によって構成されている非営利法人)が、各州に対して、前述のIDPとして提示しています。そして、多くの州の建築家登録委員会が、このIDPの要件をそのまま当該州のARE(Architect Registration Examination:建築家登録試験)受験の要件にしています。
 なお、IDPの対象者は、米国の建築系大学・大学院の専門職業課程を認定する機関であるNAAB(National Architectural Accrediting Board:全米建築課程認定委員会)(注1)と、NAABと同様に専門職業課程を認定する機関であるカナダのCACB(Canadian Architectural Certification Board:カナダ建築資格委員会)が認定する大学の専門職業学位(Professional Degree)取得者か、専門職業予備学位(Pre-professional Degree)取得者で、NAAB又はCACBが認定する大学の専門職業学位課程(Professional Degree Program)への進学者、もしくは建築系以外の大学卒業者で、NAAB又はCACBが認定する建築系の大学院の修士課程修了者等になります。
 NCARBが指定する、このIDPで履修すべき水準、すなわち研修要求水準を表1に示します。この表1などのほか、各州の指定する修了要件を満足したインターン建築家は、各州の建築家登録委員会がそれぞれ実施するNCARBのARE(建築家登録試験)を受験することとなり、これに合格すると、その州の登録建築家となります。

2 インターン建築家養成計画(IDP)

 建築家の業務においても、技術の進歩とともに学ばなければならないことが多くなってきています。このような状況に対応して、幅広い研修分野を効率的に履修してゆくため、IDPは、インターン建築家に対して、はじめにIDP監督者(Supervisor)とIDP指導者(Mentor)を選ぶことを求めています。
 IDP監督者としての要件は、インターン建築家の日々の仕事を監督し、また定期的にインターン建築家の業務内容の評価を行っている、同一事務所内で業務のために日常的に会っている上司であることです。このIDP監督者は、IDPの進行状況についてチェックする業務を行うこととなるので、IDPの趣旨及び具体的内容について理解していることが求められます。なお、IDP監督者は、一般的には、登録建築家であることが多いですが、登録エンジニア、登録ランドスケープアーキテクト(景観建築家)、インテリアデザイナー、プランナー、建設業者やその他の有資格者であることもあります。
 これに対して、IDP指導者は、登録建築家であって、定期的にインターン建築家と会ってIDPの進行状況や今後の仕事上の目標について助言を与えることができることが要件となっています。IDP指導者は、一般的には、独立な立場からインターン建築家を指導することが期待されていますので、多くのインターン建築家は、IDP指導者を自分の勤務する会社以外から選んでいます。しかしながら、自分の勤務する会社の上司に依頼して、IDP指導者になってもらうこともできます。
 IDPは、表1のように、設計と実施設計図、工事監理、運営、関連する領域という四つの大きなカテゴリーA~Dで構成されています。インターン建築家は、IDP監督者とIDP指導者を選んだ後、これらのカテゴリー内の各項目について、IDP監督者の下で実務を行い、あるいは補足教育(注2)を行うことにより、トレーニング・ユニット(TU:Training Unit)と呼ばれる点数を取得してゆくこととなります。なお、1トレーニング・ユニットは8時間の実務に相当しています。NCARBでは、日々の活動を記録するためのコンピューター・スプレッドシートをホームページで提供しており、インターン建築家は、このスプレッドシート等を使いながら、経験したトレーニング・ユニット数を記録してゆくことが推奨されています。このNCARBから提供されているコンピュータ・スプレッドシートは、表1に記載されているカテゴリー内の各項目別に、実務を行った時間を集計して、自動的にトレーニング・ユニット数(小数点2桁で表記されます)に変換が行われるようになっています。
 インターン建築家は、これをもとに、4か月ごとに雇用証明書(Employment Verification)及びIDPトレーニング・ユニット報告書(IDP Training Unit Report)を作成して、毎回、IDP指導者にIDPの進行状況等について助言を受けた後、IDP監督者を経由してNCARBに送付することが義務付けられています。NCARBでは、その報告書をもとにIDP定期評価通知書(IDP Periodic Assessment Report)を作成して、インターン建築家に毎回返送します。これにより、インターン建築家は、どの分野を重点的に研修してゆけばよいかが分かるようになっています。
 なお、インターン建築家が1週間に35時間以上勤務するフルタイム制で勤務する場合、1ヶ月に20トレーニング・ユニットを取得するのが一般的とされています。これによると、IDPを完了するには、表1のように700トレーニング・ユニットが必要ですから、ほぼ3年かかることとなります。州によっては、IDPを2年で修了できるとしているところもありますが、ARE(建築家登録試験)を受験するまでには、5年間の建築系大学での学習と3年間のインターンを経るのが一般的なようです。
 インターン建築家は、IDPトレーニング・ユニット報告書の中で、報告期間内に経験した実務時間を、表1のカテゴリーA~D内の16項目に対してトレーニング・ユニット数をそれぞれ記入するか、雇用報告書の中で勤務時間数及びカテゴリーA~D内の各項目の実務を行った割合をパーセントで記入することとなります。
 なお、取得できるトレーニング・ユニット数は、インターン建築家の行った実務が登録建築家の直接的な監督の下に行われ、かつ、その実務の内容が表1の内容を含む包括的なものの場合にのみ無制限となり、それ以外の研修環境の場合には、取得できるトレーニング・ユニット数に上限があります。なお、インターン建築家は、上記の無制限の研修環境で、少なくとも235トレーニング・ユニットを取得することが求められています。
 このようなIDPに関する事項の詳細は、NCARB発行の「インターン養成計画ガイドライン」(Intern Development Program Guidelines)などに記載されています。例えば、同ガイドラインに掲載されている、カテゴリーAの項目1「企画」の内容を要約すると、「建築主の要望事項やあるプロジェクトの要求を満足するように、文書や数値、あるいは図面を準備し、参加者の理解と合意が得られるように調整してゆくこと」と記載されており、本項目の実務を経験することによって「必要な情報やデータを収集、分析し、提案を行い、そしてその提案を評価する能力」が得られることが期待されていること、また、実務で実際に行われるであろう場面を想定したいくつかの記述がチェックボックス付きで記載されています。
 さらに、これらについて深く知りたい場合には、AIA(American Institute of Architects:アメリカ建築家協会)発行の「建築家実務ハンドブック」(Architect's Handbook of Professional Practice)を参照することとなり、これらが掲載されている箇所が示されています。その他の項目についても、同様の構成で記載されています。
 以上のような過程を踏んでインターン建築家がIDPの単位を取得してゆくとき、当然配属されている部署によって、取得しやすい項目と、しにくい項目が出てくることをNCARBでも認識しています。このような状況においては、インターン建築家は、職場のIDP監督者と相談して、取得しにくい項目の実務を経験できるように働きかけ、建築家として必要な経験を能動的に取得してゆくこととなります。

(注1) NAABは、AIA(アメリカ建築家協会)、ACSA(Association of Collegiate Schools of Architecture:建築系大学協会)、NCARB、AIAS(American Institute of Architecture Students:アメリカ建築系学生協会)の代表者等を構成員とする委員会です。米国では、建築技術の進歩によって、設計理論や、建築の歴史及び文化そして芸術についての必要性が認識されるようになってきました。NAABでは、これらが講義に導入されて、従来の4年制の課程から5年制に延長された大学について、その課程がNAABが定めた具体的な基準に適合するかどうかの審査を行い、審査に適合した大学の卒業者に対して、前記の専門職業学位が与えられます。また、4年制の建築系大学の卒業者の学位は専門職業予備学位となりますが、大学院の修士課程等において建築系の専門教育2年間を経ることによって、まったく同等の学位である専門職業学位が与えられます。
 建築系以外の大学卒業者で、大学院の修士課程へ進学するコースは、主に卒業後に建築を志した人のためのコースで、NAAB又はCACBが認定する建築系の大学院で、3年から4年の期間をかけて、建築の専門教育を集中的に学習し、専門職業学位を取得することとなります。
 また、上記の建築教育認定システムと同様にIDP調整委員会が組織されており、AIA、ACSA、NCARB、AIASの代表者等が構成員となっています。
(注2) 補足教育とは、AIA発行の「補足教育ハンドブック」(Supplementary Education Handbook)の学習や、AIAをはじめとする専門職業団体の実施する研修あるいは各州の建築家登録委員会が実施する研修の修了、あるいは専門職業学位取得者が専門職業後期学位課程(Post-professional Degree Program)を修了することなどの研修活動を指します。これによって、IDPのトレーニング・ユニットを取得することができます。例えば、2002年7月1日以降の専門職業後期学位取得者は、表1のカテゴリーDにおいて、117トレーニング・ユニットを取得することができます。なお、AIAの継続教育プログラムの1時間、すなわち1ラーニング・ユニット(LU:Learning Unit)は、IDPの0.15トレーニング・ユニットに相当しています。NCARBでは、この補足教育の目的は、知識や技術が得られる分野を多くするためと説明しています。すなわち、既存のIDPの研修分野を積極的にこの補足教育で代替することは推奨されていません。

参考文献

  • Intern Development Program Guidelines 2002-2003、NCARB
  • Member Board Requirements 2002-2003、NCARB
本文ここまで

サブナビゲーションここから

QUA CHANNEL

サブナビゲーションここまで

以下フッターです。

公益財団法人 建築技術教育普及センター

Copyright © The Japan Architectural Education and Information Center All Rights Reserved.
フッターここまでページの先頭へ