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公益財団法人 建築技術教育普及センター
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オーストラリアの建築家登録制度をめぐって

前 (財)建築技術教育普及センター建築技術者教育研究所主任研究員
現 人事院公務員研修所 教授/池田吉朗

「QUA クウェイ」NO.3(1997年)より

 オーストラリアにとって日本との関係は、年々密接さを増しています。特に貿易の面では、輸入先として世界第2位、輸出先としては圧倒的な差で世界第1位です。また、オーストラリアを訪れる観光客も我が国が世界第1位であるなど双方からの関心が高まっているといえます。とはいえ、オーストラリアの実情について我が国では知られていないことがまだまだ多いことも事実です。今回は、そのオーストラリアの建築家登録制度をめぐる状況についてご紹介します。

1 建築技術者を取りまく環境

 オーストラリアの国土は、面積約770万平方キロであり、我が国の約20倍という世界でも6番目に大きな国土を有している。一つの大陸全体をそっくり国土としている唯一の国である。世界で最も平坦で乾燥した大陸と少々の島嶼地域から成るが、地域によって気候や地勢はかなり異なる。
 北部を初め国土の約3分の1は熱帯性気候に属するが、中央部は砂漠、東南部山岳地域は降雪地帯、その他の東部、南部は温帯気候で肥沃な穀倉地帯となっている。四方を海に囲まれており、長大な海岸線を有する。地震、風害等の自然災害は比較的少ない。動植物の生態相には独特のものがある。

 人口は、約1800万人で人口密度は非常に低いが、大部分が大陸の東部海岸線沿いまたは東南部に集中している。また、全人口の約3分の2が大都市に居住しており、世界で最も人口の都市集中度が高い国の一つである。特にシドニー、メルボルンへの人口集中は際だっている。
 オーストラリアには従来アボリジニと呼ばれる先住民が狩猟採集生活を行っていたが、18世紀の終わりに現在のシドニーを最初の入植地として、英国の植民地としての歴史が開始された。そして1901年、英国元首が任命する連邦総督の下に連邦を結成し、徐々に英国からの独立を果たしていった。
 現在オーストラリアの政治機構は連邦、州、地方自治体の三層から成り、様々な分野で州政府の権限が強い。ニュー・サウス・ウェールズ(NSW)、ビクトリア、クイーンズランド、南オーストラリア、西オーストラリア、タスマニアの6州及び首都キャンベラを含む首都特別地域、北部準州の8つがある。

 オーストラリアの生活様式は主に西欧を反映しているが、かつての白豪主義を脱却し、最近ではアジア諸国を含む多様な国から移民を積極的に受け入れ、多文化社会の方向に向かっている。
 教育制度を見ると、原則的に州政府の権限となっているが、大学以上の高等教育については事実上連邦政府の発言力が強い。高等教育は、大別すると大学とTAFE(注1)と呼ばれる専門学校の二本立てとなっており、大学はほとんどすべてが州立であり、その数は少ない。大学進学率は先進国のなかでは比較的低い水準にあり、また出身階層による進学率の差が大きいとされている。また、非英語圏移民の増大に伴い、彼らを対象とする英語教育の制度も整備され始めている。

2 建築家登録制度の概要

 オーストラリアの建築家登録制度の性格を概観すると、認められた学歴要件と規定された実務経験の充足そして全国統一の建築実務試験(注2)合格という3要素から成る典型的な英米型とみることができる。
 ただ、海外移民の積極的な受け入れを行うという国の方針に基づき、海外の建築技術者の建築実務試験受験資格取得のために、学力同等性審査(注3)、能力評価国家計画(注4)のシステムを策定し、資格取得のための能力評価と能力向上のためのサポートの制度の整備を図っていることが他国にあまり例のないこの国のもう一つの特徴となっている。

 オーストラリアの建築家登録は、8つの地域(州・準州)ごとに、法令に基づいて設立された登録委員会の権限で行われている。したがって、地域ごとに異なる点が多少あるが、オーストラリア建築家認定協議会(AACA 注5)が設立されたことにより基本的にはほぼ統一されていると見ることができる。
 申請者の学歴、実務経験、国籍等により登録の要件、手続きは異なる。オーストラリア人がAACAの認定を受けた全国15大学の専門課程を卒業し学位を得ている場合は、比較的容易に資格を得ることができる。それ以外の場合は手続きはやや複雑であり、資格を得るのも決して容易ではない。ただし、いずれのケースにおいても、最低1年のオーストラリアにおける実務経験が絶対に必要であり、また最終的にAACAが定期的に実施する建築実務試験に合格しなければならない。また、いったん建築家資格の登録を行っても、その資格を維持するためそれ以後毎年更新の手続をしなければならない。登録者数は、連邦全体で約1万人を数える。そのうち、NSW州の登録者数が3200名と各州の中で最も多い割合を占めている。

 認定された専門課程の修了には最低5年を要する。更に2年間にわたり、ある一定の水準の定められた分野における実務経験が必要である。経験の内容は記録簿に詳細に記録し、更に1000~1200語から成る陳述書を提出することが求められる。また、建築実務試験では、合格後即座に実務をこなしていけるか否かが重要な判定基準となるため、英語によるコミュニケーション能力が事実上必須の条件となっている。
 オーストラリアは、隣国ニュージーランドと建築家資格の相互認定協定を結んでおり、両国で現に登録している建築家は、学歴・実務経験等の条件を問わず相手方の建築家資格を取得できる。アメリカ合衆国NCARBとも一時同様の相互認定協定があったが現在は諸般の事情により失効している。

3 オーストラリア建築家認定協議会と建築実務試験

 オーストラリア建築家認定協議会は8つの各州(地域)登録委員会及び王立オーストラリア建築家協会(注6)の代表で構成される公益機関であり、1972年に設立された比較的新しい機関である。事務局は首都キャンベラにある。
 設立の目的は、大別して二つあり、一つは建築家登録に関わる各州(地域)登録委員会間の不統一をなるべく少なくして共通化を図り、事務の効率化をめざすことであり、もう一つは急増する外国人移住者に対するオーストラリアにおける資格付与のための基準の確立及び実際の審査の実施を行うことである。
 協議会の主要な役割は、以下の3点に集約される。
(1)各州建築家法制に関する統一基準の策定
(2)すべての州(地域)で登録のための要件とされている建築実務試験の企画・管理 (試験実施は各州登録委員会)
(3)海外で取得できる建築に関する資格の内容を審査すること
 建築実務試験は、オーストラリアにおける建築実務の実際に関する知識と理解の水準を検証することを主目的としており、次の4科目で構成される独特な形式となっている。

(1)筆記試験

 出題される3つの課題から1つを選択し、45分間で小論文を作成する。

(2)試験1

 記録簿、陳述書、(1)筆記試験により、実務経験の妥当性の審査を行う。

(3)試験2

 2名の試験官による30分間の面接。法律、業務管理、倫理等を含む建築実務の知識及び理解を検証する。

(4)試験3

 別の2名の試験官による30分間の面接。記録簿、陳述書を参考にし、建築実務経験の広さ及び深さを検証する。

4 王立オーストラリア建築家協会

 オーストラリアにおける建築家の団体として最も代表的なのは、王立オーストラリア建築家協会(RAIA)である。1930年に協会が設立され、すぐその年に王立(Royal)の称号使用が許可されている。
 協会設立の目的は、建築の向上、会員の資格認定、職能の統合とステータスの維持、職能の本分に反する行為の防止、会員相互の親睦の増進と一般的な職能の利益の向上などとなっている。
 現在、RAIAは、全体でほぼ8千人の会員を擁する。このうち正会員は6千人前後であり、登録建築家の65%を占めている。本協会は、AACAの設立及びその活動方針に現在でも強い影響力を有している。
 本協会は、各支部から2人ずつ選出された計16名の評議員で構成される評議員会によって運営される。評議員の任期は2年、その他の役員は評議員会で選出される。協会の役員は、会長、副会長、前会長、名誉事務局長、名誉財務顧問であり、会長は評議員の中から選出され任期は1年である。
 本部は、首都キャンベラに位置し、その主要な役割としては、財務・管理・会員名簿管理、教育、専門能力開発研修、実務サービス、公共的問題、コミュニケーション、環境問題、会員サービス、研究、出版などが挙げられる。

 教育の面では、RAIAの教育委員会が各州登録委員会と共同で毎年継続的に行っている国内の大学等の専門課程に対する査察と認定が重要なものである。
 近年では、会員の専門能力開発研修(PD 注7)の義務化に伴うこの研修の基本的な枠組みの策定と本部開催のPDプログラムの開発、設計者の資格に基づく設計者選定方式(QBS 注8)の提案、環境デザインガイドの作成を初めとする環境保護問題へのアピールなどの分野で着実な成果を挙げている。また、欧米の建築家団体と同様厳格な職能行為規範(注9)を有し、会員の義務としている。
 以上のような事項の企画検討のため、本部には現在、(1)コミュニケーション・ネットワーク(2)人工環境教育委員会(3)環境委員会(4)専門能力開発研修委員会(5)教育委員会(6)業務委員会の6つの全国委員会が設けられており本部の活動の中核を担っている。
 機構の特徴としては8つの地域(州・準州)ごとに設けられている支部が伝統的に自律性を強く持っていることがある。近年では会員のニーズに応じた定期的なPDセミナーの開催、州政府への働きかけ等その地域に根ざした活動を積極的に行っている。

5 建築業と建築関連技術者

 オーストラリアにおける建築関連職種は、英国と同様に、建築家を初めとして、学校教育段階から明確に分離された多様な専門職に色分けされており、それぞれの資格者を組織化した職能団体としても様々なものがあるが、その連合体がオーストラリア建築設計専門技術者協議会(注10)である。
 そのほかには建築関連技術者を会員とする統一的な団体はなく、建築積算士、都市プランナー等はそれぞれ独自の職能団体に所属している。また、シビル・エンジニア、構造技術者、建築設備技術者などは、電気、化学など他の分野の専門技術者とともにオーストラリア技術者協会(IEAust 注11)を結成している。
 IEAustは、1919年に設立され、1938年に初めて勅許状を獲得している。オーストラリアの科学技術の発展とエンジニアの地位向上を使命として、エンジニアの知識、能力の増進、社会のニーズに適合したエンジニアリングの質的向上等を目的として、様々な事業に取り組み、会員には勅許専門技術者の称号を与えている。協会には6つの専門部会(College)があり、このうちシビル・エンジニアで形成するシビル部会は会員数が多く、協会内の一大勢力となっている。

6 建築家登録制度の特徴と国際比較

 オーストラリアの建築家登録制度及び建築教育を諸外国と比較した場合、以下のように旧宗主国である英国との類似点の多いことがまず指摘できる。

(1)法律(オーストラリアでは州法)に基づいて設立された登録機関に登録することにより、建築家の称号の使用が認められる。
(2)登録建築家には建築設計業務の独占が認められていない。
(3)建築家は、シビル・エンジニアや建築積算士等他の建築関連職能とは、大学教育の段階から全く別の進路を歩み別の職能と見なされる。
(4)以上の(2)、(3)から建築家と他の建築関連職能とは業務の面で協同関係を持つとともに場合により厳しい競合関係に立たされることもある。
(5)建築教育に対する職能団体の発言力が大きい。その一例として、認定校制度により限定された大学の専門課程教育全般について、職能団体及び登録機関による厳しい査察が行われる。
(6)大学進学率が比較的低く、さらに大学卒業までの間に脱落者が少なからず出るため、新規の資格登録者は極めて少数になるようコントロールされている。

 しかし、以下のような点は英国とは明らかに異なる。
(1)建築家登録は、オーストラリアでは8つ地域(州・準州)ごとになされるが、登録制度にも多少の相違があるが、英国では全国一本で行われる。
(2)登録の要件として、オーストラリアでは全国共通の建築実務試験に合格する必要があるが、英国ではその必要はない。
(3)オーストラリアでは現在登録されているのとは別の地域(州)で登録を認められることがAACAにより保障されている。
(4)建築家協会の各支部が強い自律性を有し独自の活動を行っている。
(5)海外の資格者を対象とした特別の基準に基づいた建築家登録への支援制度がある。

 これらの相違点はむしろアメリカ合衆国に近い面と見られる。これは、同じ英国の植民地として出発し、その後、連邦国家、移民国家という共通の性格を持つアメリカ合衆国と近い立場に立つに至ったオーストラリアという国の歴史から説明できることであろう。したがって、オーストラリアの制度は、英国とアメリカ合衆国をミックスし、更に独自の工夫を加えるという一種独特のものととらえることができよう。特に海外の資格取得希望者を対象とする制度的整備を進めたところにもこの国の特徴が現れている。しかし、この点については、海外出身者に対しても、必ずオーストラリア国内における最低1年間の実務経験を要求するなど、自国の制度、習慣等の理解に対して意外に力点を置いたものとなっていることに注目すべきである。
 アジア諸国との関係については、地理的にアジア世界に近接し、APECの主要メンバーとして発言力を有する国として、現実にこの地域で自国の建築家が更に進出を図ることを望んでいると見られる。ただ、我が国を含めて大多数の国と建築家登録制度や建築教育についての類似点に乏しい上、文化や気候風土の違いもあることから、資格の相互承認制度等を通じ、自国の建築家が広くアジア諸国に受け入れられるような条件整備を図ることが今後求められる課題として浮かび上がってくることは間違いない。

注1 TAFE(Technical and Further Education)
注2 APE(Architectural Practice Examination)
注3 RAE(Review of Academic Equivalence)
注4 NPrA(National Program of Assessment)
注5 AACA (Architects Accreditation Council of Australia)
注6 RAIA(Royal Australian Institute of Architects)
注7 PD(Professional Development)
注8 QBS(QUALIFICATION BASED SELECTION)
注9 CODE OF PROFESSIONAL CONDUCT
注10 ACBDP(Australian Council of Building Dezign Professions)
注11 IEAust(Institution of Engineers, Australia)

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