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公益財団法人 建築技術教育普及センター
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身体障害者と建築設計分野の職業訓練

(財)建築技術教育普及センター建築技術者教育研究所
 主任研究員 西原憲一

「QUA クウェイ」NO.19(2001年)より

1.はじめに

 近年、障害者・高齢者等がハンディキャップを感じることなく、自立した生活を営み快適に暮らせる空間となるようバリアフリーが推進されており、建物の建設においてもハートビル法が施行され、さらに、健常者、障害者・高齢者などの区別なく、誰でも使えるよう配慮するユニバーサルデザインの概念も浸透してきております。このように、障害者が健常者とともに社会生活ができる基盤整備が進みつつあります。
 本稿では、特に今まで、定規や製図板を利用した製図が困難であった上肢障害者を始めとする肢体不自由の障害者が、建築設計分野に就職を目指して、CAD設計など職業訓練等を受けることが可能となっている実状を紹介します。

2.肢体不自由者等身体障害者の実態

 18歳以上の在宅の身体障害者は、全国で293.3万人(人口比2.9%)で、障害の種類別にみると、肢体不自由が165.7万人であり、「肢体不自由」は、「上肢切断」、「上肢機能」、「下肢切断」、「下肢機能」、「体幹機能」(体幹:いわゆる胴体)、「その他」(運動機能又は脳病変上肢機能・脳病変移動機能)」に分類されます(表1)。
 上肢の機能障害(脳病変上肢機能障害を含む)の原因は様々ですが、主なものとして、交通事故その他の事故による脊髄損傷、脳性まひ、筋ジストロフィー症・リウマチ性疾患が挙げられます。脊髄損傷では指等の機能が不完全による障害、脳性まひでは指の震え、筋肉の硬直など、筋ジストロフィー症などでは手や腕の筋肉が弱るなどの症状を伴います。パソコン等を使用する場合は、これらの症状に対応した機種の選定が必要となります。
 一方、5人以上の常用労働者を雇用している事業所に常用雇用されている身体障害者は、全国で39.6万人で、肢体不自由が21.4万人となっています。さらに、採用前、採用後別の雇用状況をみると、採用前障害者の割合が高くなっています(表2)。
 なお、「障害者の雇用の促進等に関する法律」では、「障害者雇用率制度」が設けられており、「常用雇用労働者数」が56人以上の一般事業主は、その「常用雇用労働者数」の1.8%以上の身体障害者又は知的障害者を雇用しなければなりません(常用雇用労働者数が300人を超えて未達成の場合は、事業主から障害者雇用納付金を徴収)。また、就労に関する様々な援助等を総合的かつ効率的に実施するため、各種職業リハビリテーションサービスが実施されています。このように法律面からも、身障者の雇用が促進されています。

3.上肢障害者に対応したパソコン

3-1 キーボード及びマウス

 最近、普及が著しいパソコン分野においても、障害者等が使用できるような機器の開発が進められ、障害の種類や程度にきめ細かく対応した機器が販売されています。上肢障害者の場合も、キーボードやマウスの対応別に適合した機器が開発されています(表3)。ただし、障害者の障害の程度は個々に異なり、また複数の障害がある場合もあり、実際の機器の選定・使用に当たっては、機器の調整(フィッチング)が必要な場合も多いです。

表3 障害者の対応別分類

 (1)キーボードを押しにくい
  ア.片手でしか入力できないのでキーボードが使いにくい場合
  イ.不随意運動があり正確にキーを押さえられない場合
  ウ.キーを押さえると離すことが出来ない場合
  エ.キーボードの一部にしか手が届かない場合
  オ.麻痺や不随意運動はないが、四肢に欠損、変形があり、キーを押しにくい場合
  カ.上肢の力が弱く、腕をキーボードまで運べない場合
 (2)マウスやトラックボールを使いにくい
  ア.運動機能障害によりマウスポインターを調整しにく場合
  イ.マウスのクリックボタンが操作しにくい場合

3-2 CADの使用

 近年の建築分野におけるOA化には目をみはるものがあり、特にCADの開発・普及により、今までの製図の概念を変えつつあります。上肢障害者の中には、文字を書く、定規等を利用して線を引くなどの作業が健常者と比べ非常に困難な人も多く、これらの人は物理的に建築設計分野への進出は困難でした。しかしながら、マウスやキーボードを操作しパソコン及びCADソフトを利用することで、建築設計技術や知識を習得し、健常者と同程度の作業が行える人も出てきています。
 上肢の障害がないものの下肢障害により車椅子を使用する人も、机の配置、位置を配慮し、職場のバリアフリーに考慮することにより、健常者と同程度にCAD等パソコン作業が可能となっています。

4.障害者職業能力開発校

 一般の公共職業能力開発施設において職業訓練を受けることが困難な身体障害者等に対して、身体的事情等に配慮した職業訓練を実施する障害者職業能力開発校は全国に33校あります。職業能力開発校には、一般事務、OAシステム、機械製図、コンピュータ制御など様々な学科がありますが、中には建築設計など建築関係の職業訓練を実施している学科もあります。
 建築関係の学科を有している開発校の一つに中央障害者職業能力開発校(国立職業リハビリテーションセンター)があります。ここでは、インテリアデザイン科で、主に肢体不自由者に対して、インテリアや建築設計と設備機器のデザインを3次元のコンピュータグラフィックとCADで立体画像を操作しながら習得させています。期限は1年で、1時限を50分として毎週34時限・年間1,400時限程度の訓練が行われます(現在10数名入所)。障害の種類や程度、入所者の年齢や、入所前の建築関係の知識・従事経験の有無等によって異なりますが、入所者は1年間で、建築製図の基礎について習得し、CADを利用して製図ができるようになります。
 リハビリテーションセンターでは職業訓練だけでなく、職業や就職に関する情報を提供し、職業相談、職場見学、職場実習等を通じて、ハローワーク(公共職業安定所)の協力を得ながら就職に至るまでの援助や、職場へスムーズに適応できるようフォローアップを行っています。さらに就職援助サービスとして、労働市場情報の収集と提供、就職希望地機関への職場開拓の依頼、就職相談会への参加、選考面接への同行などを行っています。主な就職分野は、建設業、建築デザイン事務所、住宅・家具・文具メーカーなどとなっています。

5.おわりに

 現在のところ肢体不自由等身体障害者が建築設計分野で勤務しているケースは少ないですが、環境面では進出できる可能性は広がってきています。なお、建築士試験においても、身体に障害がある受験者については、申し出により、審査のうえ必要な措置が講じられています。
 今後、建築分野に関心があり、意欲と能力のある障害者の多くが、健常者と共生して業務に励んでいくことが望まれます。

参考文献

  • 障害者雇用ガイドブック 平成12年度版(日本障害者雇用促進協会編)
  • KOKORO RESOURCEBOOK 1999-2000版(こころリソースブック編集会編)
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