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公益財団法人 建築技術教育普及センター
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米国におけるインテリアデザイナー資格制度について1

(財)建築技術教育普及センター 建築技術者教育研究所
主任研究員 中村 安伸

「QUA クウェイ」NO.34(2006年)より

1.はじめに

 私たちは建物の中で生活をしています。建物の中は床、壁、天井などで囲われていますが、このような空間はインテリアと呼ばれ、広さだけでなく生活にふさわしい質が求められる現代の建築において重要な位置を占めるようになってきています。このようなインテリアに専門的に携わる職能として、日本ではインテリアプランナー、インテリアデザイナー、インテリアコーディネーター、キッチンスペシャリストなどを挙げることができます。このうち、インテリアプランナー資格制度は当センターが実施しており、インテリアプランナーという称号は、試験等によりインテリア設計や工事監理等に関して相当程度の知識及び技能を有すると認められた方に与えられています。
 このように、日本においてインテリアに専門的に携わる職業はさまざまですが、米国における事情はどのようになっているのでしょうか。参考文献1によると、建築に関連する職能は、(1) 建築家、(2) インテリアデザイナー、(3) プロフェッショナルエンジニア(専門技術者)、 (4) ビルディングデザイナー若しくは住居デザイナー、(5) ランドスケープアーキテクト(景観建築家)に大別されることが分かりました。今回は、米国のインテリア関係で代表的な職能であるインテリアデザイナーの資格制度についてご紹介したいと思いますが、はじめにこのような資格制度を法的に定める権限をもつ各州等についてご説明したいと思います。

2.州と連邦との関係、州間の関係など

 米国においては、合衆国憲法修正第十条により、「本憲法によって合衆国に委任されず、また州に対して禁止されなかった権限は、それぞれの州または人民に留保される」と定められています。すなわち、合衆国憲法の下では公衆の健康、安全、福祉を守る権限は各州等がもっていますので、建築家法、インテリアデザイナー法などの資格法を定める、あるいは定めないのは各州等の権限となります。付言しますと、州レベルに相当するのは米国の50の州、4つの準州(グアム、北マリアナ諸島、プエルトリコ、米国領ヴァージン諸島)、及びコロンビア特別区(ワシントンD.C.)の合計55の州等(以下、簡単に「州等」を「州」と記載します)となっています。2005年5月現在、建築家資格制度を規定することとなる建築家法は55のすべての州において定められていますが、インテリアデザイナー法は25の州で定められています。これらの法律の内容は、それぞれの州が定めているため州間で差異が認められます。けれども、建築家制度はNCARB(National Council forArchitectural Registration Boards;全米建築家登録委員会協議会)、そしてインテリアデザイナー制度はNCIDQ(National Council for Interior Design Qualification;インテリアデザイン資格全米協議会)という独立した立場をもつ非利益団体が、(1)すべての州を対象として制度の運営状況の取りまとめを行い、(2)建築家の定義、インテリアデザイナーの定義など基本的な事項についてはモデル法などに記述し、あるいは定義として定めて公表して学生、一般市民、各州政府等への周知を図り、また(3) ARE(Architect Registration Examination;建築家登録試験)、あるいはNCIDQ試験と呼ばれるインテリアデザイナー試験を全米規模で実施していることなどにより、その差異は比較的少ないのが現状のようです

3.インテリアデザイナーの定義

 NCIDQのインターネットホームページには、インテリアデザイナーの定義が示されています。この中には「簡潔な定義」と「詳細な定義(業務内容に関する定義)」が記述されていますが、ここでは「簡潔な定義」をご紹介します。なお、この「簡潔な定義」は、NCIDQのみでなく、FIDER(Foundation for Interior Design Education Research;インテリアデザイン教育研究財団)をはじめ北アメリカの主要なインテリアデザイナーの団体においても採用されています。また、この翻訳はNCIDQによる定訳ではなく、筆者が翻訳した意訳であることをお許しいただきたいと思います。

「簡潔な定義」

プロフェッショナルのインテリアデザイナーとは、教育、実務経験、試験の結果によってその資格者となる、インテリア(室内)空間の機能と質を高める人のことである。生活の質を高め、生産性を高め、公衆の健康、安全、福祉を守るために、インテリアデザイナーは以下のことを行う。

  • 顧客の要求、目的、生活及びその安全に関する要求を分析する。
  • インテリアデザインの知識を使って状況を総合的に把握する。
  • 基本設計において適切、機能的で審美的な概念をもたせる。
  • 適切な表現媒体を通じて最終設計案を作成、表現させる。
  • 非耐力構造の室内、材料、仕上げ、空間設計、家具装備の実施設計図及び仕様書を作成する。
  • 許可申請が義務付けられている機械、電気、耐力設計それぞれについて免許をもった専門家と協力して作業を進める。
  • 顧客の代理人として入札や契約書の準備、管理を行う。
  • 施工時や完了時において、図面の見直し、評価を行う。

4.インテリアデザイナーに関連する組織、機関

 インテリアデザイナーはこのように定義されていますが、それではどのような組織、機関がインテリアデザイナーを支えているのでしょうか。それについて簡単にまとめると次のようになります。

(1) 職能団体であるASID(American Society of Interior Designers;アメリカインテリアデザイナー協会)は、インテリアデザイナー及びインテリアデザイン業界の利益を代表する非利益の職能団体で、米国の同業界の中では最大かつ最も歴史のある団体です。ASIDは、1975年にAID(American Institute of Decorators;アメリカ室内装飾家協会)とNSID(National Society of Interior Designers;全米インテリアデザイナー協会)の統合により設立されました。ASIDはインテリアデザイン業務に携わっている人々の利益団体として、彼らの立場の意見を総括、代表して述べています。その一方でASIDは、会員の守るべき倫理綱領を作り、かつ自らの業務、及びインテリアデザイナーは公衆の健康、安全、福祉(HSW;Health, Safety, Welfare)を守ることを目的としているということを一般市民及び公的な機関に対して明確に表明しているなど、業務の公的性についてひろく理解を求めています。
 また、このASIDは、1970年に本章(3)で述べていますFIDERを設立し、また1972年にNCIDQをIDEC(Interior Design Education Council;インテリアデザイン教育者協議会;大学、短期大学等においてインテリアデザインの科目を教えている教員等を会員とする組織)とともに設立するなど、同協会は米国のインテリアデザイナーの公的な役割向上のために積極的な活動をしています。

(2) 第2章で少しご紹介しましたNCIDQは、1972年にASIDの前身の団体であるAIDとNSIDなどによって設立されました。これは、1960年代後半にインテリアデザイナーの実務家に対する信用付与のため資格制度の創設を求める動き、すなわち(a)インテリアデザイナーとしての実務能力を、試験によって開発、管理、検証し、また(b)各州がインテリアデザイナー法を制定するに当たって参照し、また研究できる計画や指針を示す業務を行うためには、協議会といった独立した立場をもつ組織を設立することが適切であると考えられたことによるもので、その設立に当たっては、インテリアデザインに関係する米国内の職能団体等を対象にその参加が呼びかけられたそうです。その後、NCIDQはインテリアデザイナーを民間資格であるとしている州が多いもののインテリアデザイナー試験を実施してきました。なお、NCIDQは1974年には非利益団体として登録されています。NCIDQは業務の目的を、インテリアデザインの実務における基準を示すことによって公衆の健康、安全、福祉(HSW)を守るためとする立場を表明しています。
 また、NCIDQ試験は、よいデザインであるかどうかを評価するのではなく、インテリアデザイナーとして最小限の実務能力を有しているかどうかを検証するものであることもNCIDQは述べています。なお、NCIDQ試験を受験するためにはインテリアデザイン教育課程の修了、及びインテリアデザインに関するフルタイムでの実務経験が必要とされています。NCARBのIDP(Intern Development Program;インターン建築家養成計画)と同様に、実務経験の際に監督者(supervisor)と指導者(mentor)の監督、指導の下で実務経験を積むNCIDQのIDEP(Interior Design Experience Program;インテリアデザイン実務経験計画)が新たに導入され、IDEPにより実務経験を積むことが推奨されています。なお、2008年1月1日以降に実務経験を開始する人については、NCIDQ試験に合格したことを証明する証明書すなわちNCIDQ証明書の所持者、各州に登録されているインテリアデザイナー、あるいはインテリアデザイン業務に従事している建築家(監督者)の直接の監督の下での実務経験が必修となる予定です。

(3) FIDER(インテリアデザイン教育研究財団)は、インテリアデザイン教育及びプロフェッショナル(専門職能)としての基準に合う教育課程を認定することにより、その実務がすぐれたものになるような基盤づくりをするための機関で、1970年に設立されました。FIDERは、民間の独立した非利益団体で、CHEA(Council for Higher Education Accreditation;高等教育認定協議会)に認定されており、対象は米国及びカナダの大学等です。これらのインテリアデザイン教育課程の認定は、大学等における教育の質をコントロールするために大学等が自主的に教育課程の認定を受けるもので、米国及びカナダにおいては、一般に独立した民間の非利益団体が教育課程の認定を行っているようです。
 FIDERによる認定期間は6年で、認定された課程は一覧となってホームページ等で公表されていますが、2006年1月現在、認定されている課程数は145となっています。NCIDQ及び各州は、FIDERによる認定課程の修了を現在のところインテリアデザイナー登録の要件とはしていません。しかしながら、ケンタッキー州において、2009年1月1日以降に登録を受けるためには、最小4年間の教育期間をもつFIDERの認定課程を修了し、かつ2年間のインテリアデザインの実務経験を要件とすることを発表しています。大学等に対するFIDERの認定が進んでゆきますと、登録要件としてFIDERの認定課程の修了を求める州が増えてゆくかもしれません。

5.建築家に関連する組織、機関

 次に、建築家に関連する組織、機関について簡単にまとめてみます。前章のインテリアデザイナーの場合と対比していただけますと幸いです。

(1) 米国で最大の建築家の職能団体であるAIA(American Institute of Architects;アメリカ建築家協会)は1857年に設立されました。AIAはその後、米国内の建築教育課程の普及に努めるなど、米国の建築業界の発展に大きく貢献しました。AIAは現在も、倫理規定や行動規範を示すなど、建築家としての社会的な役割を重視した活動をしています。

(2) NCARBは(a)公衆の健康、安全、福祉を守るために、NCARBに加盟している加盟委員会、すなわち各州の建築家登録委員会の協議会として機能すること、及び(b)同加盟委員会の義務の遂行を援助することを任務としている非利益の法人で、(a)建築家登録志願者に求める基準の作成及び勧告し、(b)志願者が建築家として登録されるにふさわしい能力を有することを証明する手順を加盟委員会に示し、(c)公共機関、民間機関に対して加盟委員会の利益を代表する、といった業務、具体的にはARE( Architect Registration Examination;建築家登録試験)の実施やNCARB証明書と呼ばれる各州間の互恵登録を受けることが容易になる証明書の発行業務などを行っています。なお、このNCARBが設立された経緯は、1919年に行われたAIA総会の会期中に、全米13州から集結した15人の建築家によって、建築家試験、免許制度、州間の互恵登録に関する情報交換の推進や建築における総合的な教育水準の向上を目標とした集まりが生まれたことが発端だそうです。

(3) NAAB(National Architectural Accrediting Board;全米建築課程認定委員会)は、1940年にAIA、NCARB、ACSA(Association of Collegiate Schools of Architecture;建築系大学協会)によって設立されました。当初のNAABの任務は、全米の建築系大学を認定することでした。けれども、NAABの設立以来、建築教育はますます複雑になり、また資格認定の意味も変わってきたため、認定の過程も大きく改定されました。NAABは現在、学校そのものではなく、建築の専門課程の認定を行っており、2006年1月現在、米国内で114大学等の課程が認定されています。

6.おわりに

 米国の55州のうちインテリアデザイナー法を定めているところは、2005年5月現在で23州及びコロンビア特別区、プエルトリコの計25州と約半数に及んでいますが、これらの法律が制定された年代は比較的新しく、プエルトリコが1973年に制定したのが始まりで、1980年代は5州及びコロンビア特別区、1990年代前半は11州、同年代後半は3州、2000年~2005年は4州となっています。このような経緯をみると、今後もインテリアデザイナー法を制定している州が少しずつ増加してゆくことが予想されます。
 また、米国のインテリアデザイナー制度を支えている組織、機関及びその機能は、米国の建築家制度のものと類似していることが多く、さらに免許取得のための三要件である教育要件、実務経験要件、試験要件がいずれの制度にも適用されていることを考えると、今後米国のインテリアデザイナー資格制度が目指している方向が見えるような気がします。次回の本ページでは、インテリアデザイナー資格制度を各州における運用という観点からご紹介させていただく予定です。

参考文献

  • Licensing and regulation of architects and architectural practice, William R. Huss, Kassel, Hoffman, Neuwirth & Geiger, Counselors at law, Japan Architects Association, Japan Federation of Professional Architects Associations(1983)
    (参考文献1)
    (その他の参考文献については、次号の同欄に記載します)
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