建築CAD及びCADを使用した試験について
(財)建築技術教育普及センター
建築技術者教育研究所
「QUA クウェイ」NO.27(2003年)より
1 はじめに
米国のARE(Architect Registration Examination:建築家登録試験)は、1997年よりCBT(Computer Based Testing:コンピュータを使用した試験)化されましたが、同試験の設計製図科目は、CADを用いて製図を行い、その採点もコンピュータによる自動採点を行っております。一方、我が国でも専門学校生等を主対象にした建築系のCAD関連の試験が行われております。今回はこれらの動向等を紹介します。
2 米国の建築家登録試験
ARE(建築家登録試験)の試験科目は、多枝選択式の6科目と、設計製図科目である「敷地計画」、「建築設計」、「建築技術」の3科目で構成されています。設計製図科目は、それぞれの科目がさらに小さく分割されて、ビネット(Vignette:小課題)ごとに製図の作成が課されます。これらの出題分野の決定、作成、採点、プレテストなどは、NCARB(National Council of Architectural Registration Boards:全米建築家登録委員会協議会)の下に置かれている各委員会が、毎年の結果を踏まえて検討を行い、実施しています。採点(CADによる製図の自動採点等)の検討結果等は、機密事項に該当するため、その詳細は不明ですが、その考え方はQUA CHANNELのNo.11で紹介しています。
使用するCADソフトは、NCARBで試験用に独自に開発したものを使用します。このソフトは市販されていませんが、受験資格獲得手続きを終了すると、設計製図の試験を予約する前に、練習用ソフトが送付されて来ます。また、NCARBのインターネットのホームページからダウンロードすることもできます。このソフトのコンピュータ画面には、マウスでクリックするアイコンがあり、それによって「描く」、「移動する」、「回転する」、「消去する」などの多くのドローイング・ツールを使うことができます。このツールの使用は、その他一般に市販されているCADパッケージやグラフィック・ドローイング・プログラムと同様の方法で用いられます。さらに、試験用のコンピュータで利用可能なツールには、(採点の対象となる解答の一部とはならない)計算機、ものさし、スケッチ用ツールなどがあります。採点は、コンピュータによる自動採点を行いますが、多数の正解を認めるように設計されています。また、ある程度の誤差を許容するものとなっているなど、採点エンジンは、解答を包括的な方法で評価しており、些細な誤りは、プログラム条件及び技術的に全体として準拠していることなどによって相殺されるようになっています。
なお、NCARBでは、現在、設計製図科目を中心とした出題科目の見直しが行われています。具体的には、昨年(2002年)及び本年(2003年)のNCARBの年次総会予稿集(Pre-Annual Meeting and Conference Report)によると、次の検討結果が示されています。(1)本年中に、現行のAREの科目は、新しい個別試験項目へと移行します。移行が完了すると、設計製図科目「建築計画」の中のブロックダイアグラムビネットと同科目「敷地計画」の中の敷地断面ビネットがなくなります。また、多枝選択式の項目のいくつかが科目ごとに改訂されます。(2)本年、すでにAREの問題作成者は、設計製図科目「建築技術」の中の階段設計ビネットとアクセス方法/傾斜地ビネットを統合した「垂直動線ビネット」の作成作業を開始しています。また、同科目「敷地計画」については、敷地パーキングビネットと敷地設計ビネットを統合した「敷地設計ビネット」を、そして敷地ゾーニンビネットと敷地分析ビネットを統合した「敷地分析ビネット」を作成する作業を開始しています(実際の出題は数年後の予定)。
3 我が国の建築系CADの普及状況等
我が国においても、CADのCALS(Commerce At Light Speed:生産者と消費者の間で製品やサービスに関する情報を共有し、設計、製造、調達、決済をすべてコンピュータネットワーク上で行なうための標準規格)による規格化や、入札等においてはCADソフトが指定される等、建築実務の場面においても、CADが利用されることが多くなっています。また、大学等の教育現場でも、CADが製図の道具として用いられているほか、通信教育や身体障害者に対しても、CADが非常に有効な手段となっているなどの状況が見られます。建築の分野では、提出する製図は2次元CAD(2D-CAD)によるものが多いようですが、3次元CAD(3D-CAD)の利用も多くなってきています。
産業界の動向については、日本建築学会情報システム技術委員会が、アンケートを事業者に送付し、その回答を集計した形式の報告書「建築CAD利用調査報告」第8回(2000年)、第9回(2002年)に示されていますので、以下に報告します。
(第8回の回答数255、第9回の回答数118)。
環境システムと2D-CAD(製図)の現状等(第9回報告)
規模の大小、業態を問わず、9割方の事業所で、一人一台パソコンを利用できる環境となっています。さらに、「CADによる製図は一般化した」と回答者全員が答えています。
一方、2D-CADの活用については、おおよそ6割以上の回答者が、「中堅設計者のほぼ全員が2D-CADを使っての作図作業ができる」と答え、また、「中堅設計者の多くの人ができる」までを含めると、「中堅設計者の9割近くが2D-CADを使っての作図作業ができる」ということになります。
管理者については、管理者が2D-CADで行う参照作業について、「ほぼ全員できる」と「多くの人ができる」という回答を含めると、「管理者の5割程度が2D-CADを使っての参照作業ができる」ということになります。
3D-CADについて(第8・9回報告)
3D-CADを「導入予定もしくは導入している」とする回答と、「すでに一般化している」とする回答を加えたもの、すなわち、「導入している状態」の比率は、設計事務所系で34%、施工系で50%となっています(第9回報告)。この割合は、第8回報告と比較すると急激に増えています(設計事務所系で13%から34%に、施工系で22%から50%に増加)。
主に利用されている製図ソフト(第8回報告)
設計事務所系と施工系で特に顕著な差はなく、各分野とも、その上位の三つはAutoCAD、DRA-CAD、JW_CADが占めています。なお、DRA-CADは、構造分野で多く利用されています。一方、一般に、意匠、設備の分野では、AutoCAD、JW_CADが多く利用されています。規模別にみると、規模が大きいところではAutoCADが、規模が小さいところではJW_CADが導入されているという傾向が見られます。
設計事務所系の意匠、構造、設備の各分野で利用されている製図用CADソフトの状況は、それぞれ図1~3のとおりです。
4 CAD関連の試験
我が国で建築、土木、機械系の従事者等を対象としたCAD関連の試験(製図、トレース等の試験)の種類には、各省所管の認可法人・公益法人、NPO団体等が実施している「認定試験」(認可法人実施分以外は民間資格)と、CADソフトを開発した会社等、すなわちベンダーが実施している「ベンダー試験」とがあります。その主な受験対象者は専門学校生で、専門学校の中には、これらの資格取得を授業の目標として取り入れ、それに対応して受験指導を行っているところもあります。その試験には、さまざまなものがあり、CADの実技を伴う試験も実施されています。
主催者等からハンドブックなどが出版されている試験で、当センターが把握しているものについて、その概要を示すと表1のとおりです。
試験名 | CAD利用 技術者試験 |
建築CADデザイナー 資格認定試験 |
建築CAD 検定試験 |
CAD実務キャリア 認定制度 |
CADトレース 技能審査 |
ATC・AutoCAD 技能認定試験 |
---|---|---|---|---|---|---|
概要又は 目的等 |
その職位を「情報応用技術者」という概念で捉え、多数のベンダー及び教育機関が参加するパーソナルCAD資格として捉え、認定する資格制度 | 実践型建築CADの実技試験であり、設計プランに忠実にCAD図面化できるなどの技能能力を問うもの | 実践型建築CADの実技試験であり、トレースなどのCAD操作技能を問うもの | CADを利用している実務者をはじめ、CAD教育を受けている方々を対象に、CAD利用に関する実務的な技術、技能を認定するもの | CADトレース業務に従事する者の職業能力の程度を評価することにより、技能の向上及び社会的・経済的地位の向上を図ることを目的 | AutoCADを利用する方を対象にソフトの理解とその操作方法のレベルチェックするもので、技能レベルの指標を明確にするもの |
区分 | 1級 | 1級、2級、3級 | 2級、3級 | CAD実務マスター、CAD実務トレーサー、CADアドミニストレータ、3次元トレーサー | 上級、中級、初級 | オペレーター、テクニカルマネージャー、リブロ・プログラマ |
実技(CAD) 試験時間 |
1時間 | 共に5時間 | 2級は5時間、3級は2時間 | トレーサー及びアドミニストレータは実技・筆記合わせて90分 | 上級は120分、中級は90分、初級は60分 | オペレーターは実技・筆記合わせて60分、他の2区分は合わせて90分 |
筆記の有無 | 無 | 無 | 無 | 有 | 有 | 有 |
パソコンの用意 | 受験者 | 主催者 | 主催者又は受験者 | 主催者 | 主催者 | 主催者 |
実施主体 | (社)日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会 (公益法人) |
全国建築CAD連盟 | 全国建築CAD連盟 | コンピュータキャリア教育振興会(NPO法人) | 中央職業能力開発協会 (認可法人) |
日本AutoCAD・ATC協会 |
試験の性格 | 民間資格 | 民間資格 | 民間資格 | 民間資格 | 国家認定 | ベンダー試験 |
備考 | 主対象は機会及び建築(試験は同一) | 主対象は建築 | 機械部門、建築部門あり | 機械部門、建築部門あり | 部門はなし(各専攻分野共通) |
注1)CAD利用技術者試験は1級の他、筆記試験のみの2級と基礎試験がある。なお、3次元CAD利用技術者試験も近日中に実施予定となっている。
また、1級の申込者数は10,687人であり、合格者数は1,510人(平成14年度)
注2)CADトレース技能審査は、厚生労働省による民間事業認定資格制度(国家検定)である。
また、申込者数は建築の全区分合計で2,248人であり、合格者数は1,469人(平成14年度)
注3)AutoCAD技能認定試験のオペレータ区分の受験者数は822人であり、合格者数は706人(平成13年度)
注4)AutoCADのベンダー試験は、この他にオートデスク(株)実施のAutodesk Master試験がある。
また、VectorWorks(MiniCAD)のベンダー試験(操作技能保持者認定試験)をエーアンドエー(株)が実施している。
5 CAD利用技術者試験
経済産業省所管の公益法人「(社)日本パーソナルコンピュータソフトウエア協会」は、「CAD利用技術者試験」(民間資格)を実施しています。同試験は、1級<CAD実技試験>と2級<多枝選択式>で構成されています。この試験はその対象を半年から1年程の実務経験者を想定しており、1級・2級合わせて年間4万人の受験があるなど、この関連の試験では最大受験者数を誇っています。
1級試験はCAD実技(1時間)ですが、パソコン及びCADソフトは受験生が各自持参して与えられた課題を作成し、試験終了後にはこれをフロッピーディスクに保存して提出します。CADソフトは80種類以上のものが使用可ですが、多くの受験者はAutoCADを利用しているのが現状のようです。採点は、コンピュータによる自動採点を行っています(決まった形のものを作成するので、採点の基本は、形が一致の有無で行います。ただし、一部一致しているものについて部分採点を与えるなどの措置が、採点プログラムの開発によって実現しています)。
この試験において、本年9月より、従来の1級・2級試験より基礎的な部分を試験範囲とする基礎試験(多枝選択式)が新設されました。この基礎試験は、コンピュータやネットワークの基礎知識と、CADを学ぶのに最低限必要な製図などの知識を問うもので、CBT(Computer Based Testing)で実施(基本的には随時受験可能)します。この試験は、建築系を対象(建築系の他、機械系なども対象)とした、我が国初めてのCBT試験となりました。
6 おわりに
最近のCADの普及を反映して、建築CAD関連の各種試験も盛んに実施されるようになり、一部ではコンピュータを利用した採点も行われるようになってきたほか、CBTでCAD関連の知識を問う試験も始まりました。
CADは製図の表現方法であり、その意味では道具に過ぎませんが、最近では3D-CADの開発・普及も見られ、それに伴い、建築の現場や教育の現場にもまた、いろいろな変化が見られるかもしれません。そして、そのような状況に対応して各種試験も変わっていく可能性もあります。
当センターとしては、これらの動き、さらには出題分野の改訂が検討されているNCARBのARE(建築家登録試験)の動向について、今後とも把握していくこととしています。
参考文献
- NCARB Pre-Annual Meeting and Conference Report(NCARB)2002, 2003
- 建築CAD利用調査報告(第8回<2000年12月>、第9回<2002年12月>
(社)日本建築学会情報システム技術委員会) - CAD利用技術者試験 1級ハンドブック
((社)日本パーソナルコンピュータソフトウエア協会) - 建築CAD検定試験 2級3級4級公式ガイドブック(株式会社エクスナレッジ)
- CAD実務キャリアハンドブックVOL.2(コンピュータキャリア教育振興会)
- CADトレース技能審査試験問題集(中央職業能力開発協会)
- AutoCAD オペレータ技能認定資格問題集(日本AutoCAD・ATC協会)
