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公益財団法人 建築技術教育普及センター
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ヨーロッパにおける建築教育とアーキテクト制度

(財)建築技術教育普及センター建築技術者教育研究所

「QUA クウェイ」NO.25(2003年)より

1.はじめに

2002年10月に(EU各国で最後まで批准していなかった)アイルランドでEU拡大を盛り込んだニース条約の批准を問う国民投票が賛成票多数で可決されました。この結果、1999年の通貨統合に続き、2004年以降バルト3国や中東欧の旧共産圏の国々まで拡大する見通しになりました。このようにEUでは統合と拡大の方向へ進んでおり、それとともに人や物、資本等の移動が活発になってきています。一方、サッカーのワールドカップなどではEU各国がしのぎを削り対戦するなど、統合とは別に国の独自性や地域性、地域文化の保存というベクトルも存在しています。 建築教育や職能制度を見ると、統一されているとは必ずしもいえない状態が続いており、建築教育の教育年数やアークテクトの資格取得に必要な実務経験年数が異なっていたり、そもそもアーキテクトの業務独占や名称独占がない国があるなど様々です。
さて、当センター建築技術者教育研究所では諸外国における建築家等の制度の実態、動向等についての情報交換を行うなどの目的で「海外建築資格情報研究会」を開催しております。今回、真木康守氏((社)日本建築学会研究事業部長)が、「ヨーロッパにおける建築教育事情」について報告を行いましたが、このうち、各国の建築教育制度の比較の部分を抜粋して紹介します。なお、この内容は、2001年6月にイスタンブールで開催された建築教育に関する国際会議に出席された島田良一先生(東京都立大学名誉教授)が得た情報(建築雑誌Vol.116, No.1475)をもとに入手した資料「ヨーロッパの建築教育の制度的背景」(The Institutional Context of European Architectural Education, Herman Neuckermans, EAAE News Sheet 60)から引用翻訳したものです。

2.EAAEについて

EAAE(The European Association for Architectural Education)は、国際的な非営利団体であり、1975年に設立され、建築の教育・研究分野の情報・人的交流を推進することを、全欧州的に扱うことを目的としています。会員数は137の高等教育機関と60名の個人会員(1997年)であり、EU各国の教育機関のみならず、ロシアやマルタなどの国の教育機関も含まれており、30近い国の教育機関が所属しています。英語とフランス語を公用語としており、本部はベルギーにあります。
また、アーキテクト及びその職能に関する欧州の組織としてACE(Architect's Council of Europe)があり、EUの15加盟国それぞれ4名の代表から構成(うち2名は職能団体の代表、2名はアーキテクトの代表)されています。

3.ヨーロッパの建築事情と建築制度

アーキテクトの職業へ就くための方法は国によって様々です。建築系の学校を卒業後直ちに実務を行うことができる国もあれば、報告や試験を伴う実務訓練が必要な国もあります。また、認定された高等教育を受ていない者に対してのみ能力の検証として試験を行う国(オランダなど)もあります。なお、ACEはアーキテクトとして仕事をするためには「高等教育機関で最低5年の学習と少なくとも2年間の実務訓練期間が必要である。」と表明しており、『建築教育に関するUIA/UNESCO宣言』(1996年バルセロナ)でも、「アーキテクトの教育として全日制の高等教育における5年間以上の教育と2年間の実務訓練を要する。」とされています。
(以下の各国の紹介は、前述の「ヨーロッパの建築教育の制度的背景」から引用したものです。)

オーストリア

  • 技術系大学の卒業生はDipl.-Ing.Respで、芸術系(以前は専門学校)の卒業生はMag.Arch.である。両方の卒業生は、1993年以降、民間技術者法(Private Engineer Act)のもとに仕事をしている。
  • 修了証書(ディプロマ)は国のシステムで教育認定(アクレディット)されている。教育機関の質についての内部評価及び外部評価は2001年から始まった。
  • 民間のエンジニア、アーキテクトは特定分野のプロジェクトの計画を行う資格があるが、現場監理を行うことはできない。マスタービルダーの資格のあるアーキテクトのみが両方行うことができる。
  • この資格は建築学科の卒業と同時には与えられない。民間技術者試験の受験には数年の実務が必要である。オーストリアのEU加盟に伴って、EUアーキテクトに対してはいわゆる情報開示(申請者が建築分野の法的規制を熟知していることを立証する専門協議)によって民間技術者試験を免除するように民間技術者法が整備された。
  • 「アーキテクト」の称号は、「アーキテクト及びエンジニア会議所」の会員になった場合のみ授与される。

ベルギー

  • 修了証書は高等教育機関や大学ごとに異なるやり方で教育省によって認証(recognized)されている。専門職(プロフェッショナル)による教育認定はない。
  • 卒業生は2年間の実務経験のあと法的責任を伴う独立した個人として建築の実務を行う資格を得る。

デンマーク

  • 修了証書の教育認定はない。「建築候補者」という卒業生の称号は国によって保証されている。
  • 教育は5年間で、卒業後直ちに実務を行える。その場合、デンマーク建築家協会(MAA)の会員にならなくてもよい。しかし国の関係する仕事には専門的な経験の証明が要求される。
  • 北欧諸国(スウェーデン、ノルウェー、フィンランド)は多少の違いはあるが、すべて似た状況にある。

フランス

  • 卒業生は卒業後直ちに実務につく権利がある。卒業生は宣誓して建築家協会に入会する。
  • プログラムは教員、実務家、大学教授からなる委員会によってサイクルごとに教育認定されている。
  • 第6学年の学習は1セメスター(半期)の実務実習と卒業制作から成っている。

ドイツ

  • 修了証書は技術系総合大学も単科大学も国によって保証されている。
  • 卒業生はDiplom IngenieurかIngenieurの学位を得る。
  • 1年から2年の実務実習を建築家会議所に提示するだけでアーキテクトの資格がとれ、実務に参入できる。
  • 技術系総合大学の公式学習期間は5年(実際には平均で6.5年)、単科大学は4年から4.5年である。

ギリシア

  • 修了証書は教育機関から与えられるが、教育認定はない。
  • 最終学年のプロジェクトを専門家の審査員団(ジェリー)に提示して専門職に参入する。
  • 実務実習は必要ないが、国の関係する仕事については仕事の範躊(重要度)に応じて経験を証明しなければならない。
  • エンジニアやサーベイアー(積算士)もアーキテクトとして活動できる。

イタリア

  • 卒業生はdottore archittettoと呼ばれ、専門職に参入するためには年に2回行われる国家試験に合格し、建築家協会の会員にならなければならない。試験委員会は複数の大学教授と1名の建築家協会の代表から構成されている。実務実習は必要ない。
  • アーキテクト・ドラフトマンは3年間の教育であり、dottoreは正式な5年間の教育が必要である。

オランダ

  • 修了証書は直接専門職につながっている。
  • 教育認定はない。教育機関の質の管理は、3年ごとの教育に関する外部評価と、それとは別の3年ごとの研究に関する評価によって行われている。この評価は専門職とは無関係である。
  • 学習プログラムはUIAアコードに書かれているアーキテクトの基本要件を満たしている。

ポルトガル

  • 今まで(2001年以前)は建築学科の卒業生は卒業後直ちに専門職に参入でき、建築家協会の会員になることができた。
  • 現在(2001年)は新しい私立の建築学科が多数できたので状況が変わりつつある。建築家協会は登録する前に6か月から8か月間の実務訓練を要求している。
  • 建築家協会(委員会の組織はまだ議論の対象となっている)による学科の教育認定ないしはプログラム認可(certification)の具体化が進行中である。認定された学科の卒業生は実務訓練後に試験を受ける必要はないが、その他の卒業生は試験に合格する必要があるというものである。

ルーマニア

  • 4つの教育機関が「アーキテクト」の称号を出している。卒業生は直ちに専門職に参入できるが、 卒業してから2年した後、建築家協会の委員会(教育関係者と実務家で構成)が実施する試験に合格しないと責任者として仕事をすることはできない。
  • 2001年の終わりまでに、専門職に参入できるのは2年間の実務経験後となる。
  • 国にプログラムの教育認定委員会がある。
  • 建築家協会(IAIM)は4年ごとにRIBAの評価を要請している。
  • IAIMは、自国の卒業生は無条件でフランス建築家協会の会員となる権利をフランス文化省から得ている。

スペイン

  • スペインでアーキテクトになるには、国公立の建築学科あるいは認可された私立大学の建築学科を卒業する以外に方法はない。
  • 卒業生は卒業後直ちに専門職として実務を開始することができる。
  • 建築学科の卒業生のみがアーキテクトを名のることができる。

イギリス

  • 建築の教育は、一般的に、3年間の学部コース(パート1)、1年間の実務訓練(the year out)、続いて2年間の「建築の修了証書」(パート2)、さらに最低1年間の実務から構成されている。その後、卒業生はパート3の試験(事務所での経験の記録、ケーススタディ、専門職としての実務に関する筆記試験と口頭試問)を受けることができる。それでRIBA(王立英国建築家協会)への入会資格とARB(政府)への登録資格を得る。イギリスではARBへ登録した個人がアーキテクトを名のることができる。
  • RIBAとARBはイギリスの30学科を共同管理している。大学は5年ごとにRIBA/ARBによる質の評価を受けている。この「監査」は学生の能力の質(教育内容もチェックする)に焦点を当てており、教育認定に対して批准確認(バリデーション)と呼ばれている。これは全学年を対象としているが、特に3年次(パート1)、5年次(パート2)、7年次(パート3)を精査する。「監査」は総合的で、審査委員会は学長、学科長、教員、学生などに面接し、展示物や代表作品集(ポートフォリオ)のサンプルによって教育成果を調査する。それをもとに報告書が作成され、承認を求めるためにRIBAとARBに送付され、情報提供のために学校に送付される。報告書には弱点を修正するため条件がつけられることもある(早い時期の再調査を含む)。

 なお、EU加盟国のアーキテクト制度と教育等の関係を比較すると、表のとおりです。

EU加盟国のアーキテクト制度と教育等
国名 業務独占 名称独占 教育年限(※1) 実務経験(※2) 試験(※3)
アイルランド 5年
イギリス 5年(※4) 2年(※4)
イタリア 5年
オーストリア
数年
オランダ 5年 無(※5)
ギリシア 5年
スウェーデン 5年程度(※6)
スペイン 6年
ドイツ 4~5年 1~2年
デンマーク 5年
フィンランド 5年
フランス 5年以上
ベルギー 5年 2年
ポルトガル 5年 6~8か月
ルクセンブルク
1年

※1)教育年限は建築の高等教育の年数であり、詳細が不明の国は空白とした。また、教育期間中に実務訓練期間があり学業を中断する制度を有する国もあるが、その期間は基本的には含まない。
※2)実務経験は、建築の高等教育修了者(ディプロマ取得者)がアーキテクトの資格を得るために必要な年限である。
※3)試験は、建築の高等教育修了者に対する有無である。
※4)サンドイッチ方式
※5)実務経験は不問であるが、大学卒業後2年間の実務経験プログラム(PAS)を導入し、推奨している。
※6)4.5年の学校教育と最低4か月の実務訓練(一般に卒業論文作成前)
出典)「ヨーロッパの建築教育の制度的背景」を元に、

  • 「建築家の海外実務基準」(NCARB:2002年版〔ただし、オランダとルクセンブルクは2002年版の資料がないので、1996年版を使用〕)
  • 「第3回BCS欧米調査団報告書((社)建築業協会編:1998年)
  • 「EC加盟国におけるアーキテクト資格制度の動向」(瀬口哲夫:1994年)〔「建築教育と資格制度」(日本建築学会編)、P67~73)〕

 により、建築技術教育普及センターで加筆。

4.おわりに

EUは今後の拡大と共に、より広範囲に交流が進み、建築設計にかかるアーキテクトの移動の機会も増えていくものと予想されます。さらに、UIAアコードなど世界的基準の動きもあります。そのなかで、各国ごと違いが見られるアーキテクト制度をどのように運用・維持していくのか、又は必要に応じた改正が行われるのかなどの状況について、当センターとしても、今度とも注視していきたいと考えております。

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