このページの先頭ですサイトメニューここから
このページの本文へ移動
公益財団法人 建築技術教育普及センター
  • English
  • サイトマップ
サイトメニューここまで

本文ここから

米国におけるインターン建築家養成計画(IDP)について(その3)

(財)建築技術教育普及センター 建築技術者教育研究所
主任研究員 中村安伸

「QUA クウェイ」NO.30(2004年)より

1 はじめに

 前号(QUA No.29)では、米国におけるインターン建築家養成計画(IDP:Intern Development Program)と呼ばれる実務研修の申込みまでご紹介しました。今回は、その後の手続きと評価をご紹介したいと思います。前号、前々号と併せてご一読いただけますと幸いです。

2 IDPの履修

(1) IDP監督者及びIDP指導者

 インターン建築家は、一般に、それぞれNCARB(全米建築家登録委員会協議会)が定めたIDPの定める基準にしたがって実務研修等を行うこととなりますが、そのためには、はじめにIDP監督者及びIDP管理者になってくれる登録建築家などを自ら選んで依頼し、了承されなければなりません。

  • IDP監督者 IDP監督者は、インターン建築家のIDPの進行状況についてチェックすることとなるので、実務を行う州に登録されていることが必要です。また、IDPの研修成果は、一般に、4か月ごとに雇用証明書とIDPトレーニング・ユニット報告書に記入してNCARBに送付しますが、IDP監督者は、報告期間中のすべてにわたってその立場にいる必要があります。もしそれが難しい場合は、社内の管理建築士など責任者に依頼することとなります。なお、新たな勤務先が州外となる異動があった場合や、常勤・パートタイムなど身分あるいは勤務形態に変更があった場合には、その時点までの雇用証明書とIDPトレーニング・ユニット報告書を完結させ、その後は新たに記入を始めなければなりません。
  • IDP指導者 IDP指導者は、定期的にインターン建築家と会合を持ち、IDPの進行や建築家として職業上の助言や指導を行います。また、IDPトレーニング・ユニット報告書については署名することが求められています。NCARBは、「IDP指導者の手引き」(IDP Mentor Guidelines)という冊子を作成しており、IDP指導者は、これに基づいて行います。また、IDP指導者は、同冊子に記載されている必要事項をNCARBに報告することにより、米国の建築家の継続教育システムであるAIA/CES(Continuing Education System)の単位を取得できます。

(2) 研修分野

 IDPの研修分野は、表1のように16に分かれています。これらは、カテゴリーA、B、C、Dのいずれかに分類されますが、それぞれのカテゴリーにおいて350、70、35、10トレーニング・ユニットを取得して得た合計の465トレーニング・ユニットに、A~Dいずれのカテゴリーからでも取得できる235トレーニング・ユニットを加えた700トレーニング・ユニットを取得しなければなりません。なお、1トレーニング・ユニットは、8時間の実務に相当します。
 NCARBは、いずれの研修分野においても「学び、理解する」ことと「技術を身に付け、応用する」ことの二種類の活動が大切であると説明しています。「学び、理解する」こととは、口頭であるいは文章で、概念や技術的な原理、仕様などを理路整然と表現できることまでを目標としています。また、「技術を身に付け、応用する」ことは、実際の実務により習得してゆくこととなります。
 NCARB発行の「インターン養成計画ガイドライン」には、それぞれの研修分野の定義、目的、実務内容のチェック項目が分かりやすく記載されていますが、インターン建築家がより詳しい文献を必要とするときには、適宜AIA(アメリカ建築家協会)発行の「建築家実務ハンドブック」あるいはCSI(Construction Specifications Institute:建設仕様書協会)発行の「実務便覧」(Manual of Practice)を読むよう参照箇所が示されています。

(3) 実施に当たって

 IDPは、実際の実務に触れながら実施してゆくことが望ましいとされていますが、表1のように、AIA発行の「補足教育ハンドブック」(Supplementary Education Handbook)を学習するなどの補足教育によることもできます。このハンドブックは、AIA発行の「建築家実務ハンドブック」(Architect's Handbook of Professional Practice)に基づいて、インターン建築家向けに分野ごとに25分野の小冊子に編集したもので、IDP履修者に対して建築業界の実務において実践的な洞察手法を提供しています。それぞれの小冊子には、平均して六つ程度のかなり具体的な事例と演習課題等が記載されており、インターン建築家は、これらの現状分析やその解決方策をノートに記述してIDP監督者の指導を受けることとなっています。これによりトレーニング・ユニットが取得できますが、ここで取得できるのは、AIAが認定している継続教育プログラムの修了など他の補足教育も含めて235トレーニング・ユニットまでとなっています。けれども、表1に示されるように「補足教育ハンドブック」すべてを履修したとすると、必要なトレーニング・ユニット数全体の約20%になります。「補足教育ハンドブック」の小冊子それぞれがかなりまとまったものであるという印象を受けますが、AIAは現在、「補足教育ハンドブック」の改訂版となる「発展する専門家のための手引き」(Emerging Professional's Companion)をNCARBと共同で作成しています。そして、この手引きの内容は、インターネットを通じて学習できるものとなる予定です。
 ここで付言しますと、IDPは、外国での建築実務経験によってもトレーニング・ユニットを取得できます。たとえば、米国又はカナダの登録建築家以外の建築家のもとに行われた実務経験の場合には、IDP全体での必要単位の約三分の一に当たる235単位まで取得可能です。

3 IDPの審査及び修了

 インターン建築家は、IDPの申込書が受理された後、NCARBからの要請にしたがって出身大学等に学歴証明書を請求します。この証明書は、大学等からNCARBへ直接送付されます。これによりIDPの開始状況の記録が整い、その後はおよそ4か月ごとに雇用証明書及びIDPトレーニング・ユニット報告書を提出することとなります。雇用証明書及びIDPトレーニング・ユニット報告書の書類審査が完了し、データが記録されるまでの時間は、提出された書類の複雑さによって異なりますが、おおむね10~12週間のようです。審査の過程で委員から疑問点が出された場合には、この疑問に答えるための説明を記載した書類が求められます。インターン建築家は、疑問点が解消されるまで、NCARBの顧客サービス(Customer Service)部とやり取りをすることとなります。そしてその審査を通過すると、インターン建築家のIDP記録が確定し、IDP定期評価通知表が送付されます。
 インターン建築家は、IDPの履修がある程度進んだ段階で、申請する州の建築家登録委員会にARE(建築家登録試験)の受験要件及び登録されるまでの手順の確認を行います。というのは、その州が、受験要件として、IDPの標準的な要件のほかに、独自に定めている項目が存在したり、試験においても、ARE以外に州が独自に付加的な試験を実施している場合もあるからです。
 また、インターン建築家は、自分のIDP記録に関する一切の情報を州の建築家登録委員会へ送付依頼する手続きを、IDPの修了予定日の90日前までに、NCARBのホームページ上から、あるいは郵送で申請します。NCARBのホームページでは、NCARB協議会記録の有効期限の確認、簡単な記録の更新、IDP定期報告書の閲覧、連絡先住所の変更などの手続きが、IDとパスワードの入力により行えるようになっています。
 NCARBは、この申請書を受領すると、インターン建築家のIDPの記録等が、その州の建築家登録委員会が定めた要件をすべて満たすことを最終確認する作業を行い、受領の完了日以後30日以内に建築家登録委員会へNCARB協議会記録等の送付を行います。
 また、インターン建築家は、AREを受験する州の建築家登録委員会から受験申込書を入手し、必要事項を記入のうえ返送する手続きを併せて行います。これにより、インターン建築家は、AREをすみやかに受験することができるようになります。

4 IDPの制度評価

 モンタナ州立大学は、NCARBから費用の提供を得て、1999年に「インターン建築家の経験に関する全米調査」を行いました。そのなかでインターン及びその経験者など約三千人によってインターン経験の評価がなされましたが、その評価を分析した結果、インターン期に大きな成果があったと回答した人は、一般に研修によって広い経験を得ることができ、あるいは多くの責務をこなすことができ、あるいはよい指導者及び評価者に恵まれたと考えられることが指摘されました。
 この報告に基づき、NCARBは、インターン研修を更に発展させてゆくためにはNCARB、AIA、ACSA(建築系大学協会)、NAAB(全米建築課程認定委員会)、AIAS(アメリカ建築系学生協会)など各組織の果たすべき役割の実施及び協調体制が大切であることなどを述べています。また、インターン期にインターン建築家が成長するために有用な機会と有用な指導者を得ることの重要性が、インターン建築家研修における全米代表者会議においても認識されたとのことです。

5 おわりに

 このように、米国のインターン建築家の実務研修の制度として位置付けられているIDPは、NCARBや各州の建築家登録委員会などの公的な組織、AIA等の専門職業団体、そしてACSA、AIASなど建築系大学の関係組織との協力により実施されています。IDPは、建築家の実務全般にわたってインターン期にひととおり経験するのが特徴で、当事者であるインターン建築家にとってはなかなかたいへんな部分もあるかもしれませんが、実務研修制度として参考になる部分もあるように思われます。
 例えば、我が国では大学の建築系学科を卒業した者は2年の実務経験を積むことにより一級建築士試験の受験資格が得られますが、英国では実務を教育に挟み込むサンドイッチ方式の制度が取り入れられています。また、実務経験を必要としない国もあります。このように、実務経験の取り扱い方や年限、そして考え方も国において様々ですが、この差異は、それぞれの国の文化や社会的背景に基づいている部分も多いように思われます。
 当センターとしては、我が国における建築士免許取得のための実務経験の現状も踏まえつつ、世界各国の建築家登録制度に関する調査・研究を今後とも行ってゆくこととしています。

参考文献

本文ここまで

サブナビゲーションここから

QUA CHANNEL

サブナビゲーションここまで

以下フッターです。

公益財団法人 建築技術教育普及センター

Copyright © The Japan Architectural Education and Information Center All Rights Reserved.
フッターここまでページの先頭へ