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公益財団法人 建築技術教育普及センター
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アメリカの建築家資格制度

建築技術者教育研究所 研究員/海老塚 良吉

 アメリカの建築家の試験・登録機関である全米建築家登録委員会協議会(National Council of Architectural Registration Boards、以下、NCARBとする)の会長ホーマー・L・ウィリアムズ氏と副会長サミュエル・T・バレン氏が、1994年10月5日に当センターを訪れ、日米相互の建築家の試験・登録制度について討議を行いました。
 今回は、この時の討議を中心にして、アメリカの建築家資格制度の概要を紹介します。

「建築 普及&資格」NO.2(1995年)より

州による異なる建築家法

 アメリカは連邦共和制の国であり、国(連邦政府)は国防や外交等を分担するだけで、州政府が基本的には行政の単位となっています。建築家についての法律も各州の法律により規定されています。主要な欧米諸国でこのような連邦制度をとっているのは他にドイツがあります。各州ごとの制度の違いはコラム欄に示すようになっています。
 しかし、州ごとに建築家の規定する法律が異なっているといっても、共通点も多く、アメリカで建築家の資格を得るためには、基本的には、建築教育、建築実務、建築家登録試験の三つの条件を満足しなければなりません。

建築教育

 教育については、一般的には、大学で5年または6年の建築教育を受けて、学士または修士の資格を得ることにより得られます。アメリカでは初等、中等教育は6・3・3制(その他の方式もある)が原則となっており、大学の進学率は5割近くになっています。ただし、全ての大学の建築学科が資格を認定されているわけではありません。全米建築課程認定委員会(National Architectural Accrediting Board)がそれぞれの大学の建築学科の教育内容を調査し、54の基準に照らして一定のレベルに達していないと認定はされません。現在は、約100校の大学が認定を受けています。しかし、まだ認定を受けていない大学が25校ほどあります。
 大学で建築を勉強している学生数は、全学年を合わせて35,000人から40,000人いますが、学士または修士を得て卒業する人数は、年間4,000人から4,200人です。ただし、この卒業生が全て建築家の試験を受けていると言うわけではありません。

建築実務

 建築実務については、大部分の州が、建築教育を受けた後、3年間の実務訓練を義務付けています。NCARBは、アメリカ建築家協会と共同で実務経験に関する指針を提供するために、インターン建築家養成プログラム(Intern-Architect Development Program)を作成しています。実務訓練としてインターン建築家養成プログラムを義務付けているのは1993年時点では、32州ですが、1996年には3州・地域を除く全てに拡大される予定です。

建築家登録試験

 毎年実施されているNCARBの建築家登録試験 (Architect Registration Examination)の受験者数は、8,000人から8,500人程度です。この内、80%は建築の学士または修士を持っていますが、残り20%は建築以外の大学教育、例えばエンジニアリングやランドスケープ・デザインやインテリア・デザインを勉強した人、または教育を特別に受けたわけではなく実務経験が十分にあるということで受験する人です。
 受験者の内、全ての科目に合格して建築家の登録資格を得る人数は、年間2,000人程度います。現在、NCARBに登録している建築家の数は、約10万人になります。毎年の建築家登録試験の受験者の数はこのところ減少傾向にあります。

NCARBの継続教育

 近年、技術水準の維持に関心が高まっており、例えば、アイオア州では、全ての専門職に関して、継続教育が登録更新の必要条件として義務づけられています。NCARBは、受講者に経済的な負担がかかるとの批判があるセミナー等の方式ではなく、最低必要とされる能力をテストするという観点から、建築家能力確認プログラム(Architect Development Verification Program)という制度を開発しています。
 建築家が継続教育を受けるべきであるという要請は、消費者及び行政の側から出されたもので、すでに登録している建築家の側からは大変な反対がありました。建築家能力確認プログラムは、初めは1976年に開発し、2年ほど実施したのですが一度中断され、最近になって再導入しました。
 現在、建築家の免許の更新時に、建築家能力確認プログラムを義務づけている州は、アイオア州、アラバマ州、フロリダ州の3つですが、近い将来、導入しようと検討中の州が7つ、8つあります。5年以内には大部分の州で導入するだろうとNCARBでは予測しています。建築家能力確認プログラムの受講が義務づけられている州では、有名建築家であっても例外なく受けなければなりません。

 建築家能力確認プログラムは、個別に受講できる、建築物の安全性や省エネルギー等の特定のテーマについての学習プログラムです。受講者はこれに合格すると単位を取得できる制度となっており、NCARBがこの採点結果を記録として保存し、各州からの要請があれば合格認定証を出しています。
 受講にあたっては、モノグラフと呼ばれる各単位ごとの学習プログラムを、1科目あたり35ドルで購入して勉強します。この中にある小テストに回答を書き込みNCARBに郵送して採点してもらえば良く、地理的な問題はありません。
 アラバマ州の建築家の資格を持っているニューヨーク在住の人が、わざわざアラバマまで出向かなくても建築家能力確認プログラムのテストをニューヨークで受けることができます。アイオワとアラバマの2つの州の登録建築家の数は約5,000名ですが、その内、2,000名がアイオワ、アラバマに在住し、残り3,000名はその他の州に住んでいます。しかし、どこに居住していても受講できるシステムのため、全米各州に住んでいる人や米国以外に住んでいる人も建築家能力確認プログラムのモノグラフを購入し、受講しています。
 このプログラムはまだ、始まったばかりということもあって、年間の受講者は、第1回が1,700名、第2回が3,000名でそれほど多くありませんでしたが、次第に増加する傾向にあります。建築家は、建築家能力確認プログラム以外の方法で継続教育を行うことも勿論できますが、建築家能力確認プログラムは費用も少なくかつ、効率的なシステムです。

アメリカ建築家協会の継続教育

 アメリカ建築家協会でも、会員としての資質を維持継続するために、継続教育システム(Continuing Education System)を開発しており、1997年末までに全会員に取得が義務付けられています。建築家能力確認プログラムは、この継続教育システムの要求水準を満たすものとなっています。

カナダとの建築家資格の相互承認

 NCARBは、カナダ建築評議会委員会(Committee of Canadian Architectural Councils)との間で、建築家資格の相互承認の協定を締結し、1994年7月1日より実施されています。これによりアメリカとカナダの建築家は一方の国の建築家の資格を取得していれば、他方の国でも建築設計の業務が行えるようになりました。ただし、NCARBは、カナダの仏語の試験に合格した者について、米国で建築の設計業務を行うに当たっては、<十分な英語の能力を有することを証明する>という条件を課すことができるとの留保条件等をつけています。
 また、NCARBは、メキシコや欧州共同体(EU)の建築家登録機関とも資格の相互承認について協議を進めています。

イギリスとの建築家資格の相互承認の解消

 イギリスとの間についても、イギリスで建築家資格を持っている人については、アメリカの建築家資格を持っているものと認定し、逆に、アメリカの建築家資格をイギリスでも認定するという相互承認の同意書を1970年に締結していましたが、この同意書を、1989年に解消しています。
 これは、アメリカでは、建築教育、実務登録、試験の3つの分野で基準の見直しを行って変更を行ったのですが、イギリスでは、建築教育についてはアメリカと同様の水準にあるものの、実務訓練、試験の2つの分野ではアメリカの要求水準よりも低い基準にあると判断したためです。建築実務についていえば、イギリスでは建築実務の期間が2年であり、アメリカの建築実務訓練が原則として3年以上という条件を満たしていません。イギリスの資格要件はアメリカに比べて緩やかであり、建築技術が次第に高度化、複雑化する中で、問題があるのではないかということで解消しています。
 ただし、イギリスとの相互承認の協定の締結を解消するにあたっては、NCARBの中でも満場一致で決定したわけではありません。場合によっては、全く解消するというのではなく、例えば、実務訓練の期間をアメリカで1年間追加すれば、資格を承認する等の工夫をした方が良かったとの意見もあります。
 昨年、NCARBはイギリスの建築家登録機関と話し合う機会があり、相互に情報交換をして、資格の相互認定に向けて、再び検討を開始しようとしています。
 英連邦の1つであるオーストラリアの資格認定委員会との間でもイギリスと同様の協定を締結していましたが、これについてもイギリスとほぼ同時期に協定を解消しています。

建築家試験のコンピューター化

 NCARBは、コンピューターによる建築家登録試験を1997年2月からスタートする計画です。コンピューターによる試験は、学科と製図の全てについて導入する予定で、1995年10月にはコロラド州で試験的に実施し、1996年2月には全国規模で試行的な試験を行う計画です。これにより、現在は年間1回(1部の科目については2回)、特定の会場でしか受けられない建築家登録試験がもっと自由に受験できるようになると思われます。
 試験のコンピューター化は、教育試験サービス(Educational Testing Service)という、アメリカの大学に入学するための統一試験や政府、企業の入社試験等を実施している専門機関に委託しています。ちなみに、建築家登録試験についても、試験問題の作成自体はNCARBの試験委員会で行っていますが、問題の文法、文体、難易度等の検討や、択一試験の採点、統計分析等は、この試験専門機関に委託して実施しています。

建築家登録データベース

 建築家の登録データは、NCRABのコンピューターに保存されており、各州の委員会はモデムを接続したパソコンを使って、公衆電話回線を通じて、この記録を参照することができます。ただし、データを見ることができるのは、NCARBと各州建築免許登録委員会の職員だけに限定されており、非常に機密性の高い記録としています。NCARBではこの処理を全てパソコンで行っています。

Column

NCARB

 NCARB(National Council of Architectural Registration Boards)は、それまで各州で独自に実施されていた建築家登録のための試験の統一的な実施、州間の相互登録、より高度な教育基準の開発等を目的として、1920年に設立された非営利法人です。合計55(全米の50の州、プエルトリコ、グァム、北マリアナ諸島、バージン諸島、コロンビア特別区)の地域の各建築免許登録委員会で構成されています。
 NCARBの主要業務は次のようになっています。
(1)インターン建築家養成プログラム
インターン建築家養成プログラムは、免許要件として必要とされる実務経験に関する指針を提供するために、NCARBと米国建築家協会が確立したプログラムです。インターン建築家養成プログラムの位置づけは各州で異なります。1996年には、3州・地域を除くすべてにインターン建築家養成プログラムに基づく実務経験の義務づけが拡大される予定となっています。
(2)建築家登録試験 (Architect Registration Examination) の実施
各州等の加盟委員会に対して、建築家の免許登録を申請する者に課する統一試験問題を作成して、実施しています。
 試験問題は、9科目からなり、毎年6月に(製図科目は12月にも)実施
 試験は、4日間、延べ33.5時間、うち建築設計は12時間(12月は2日間)
 毎年の受験者数約一万人弱
 うち2,000人~2,500人が新規に建築家登録に到達
 全科目に合格するのに平均2年半を要しています。
 試験問題の作成は、ベテランの建築事務所長等で構成される試験委員会で行われ、試験科目ごとに8~10名の委員で分担して作られます。アメリカの一般的な慣習として、試験委員は無報酬で、交通費、宿泊費、食費のみが支給されます。
(3)建築家資格要件の認定
 一定の資格要件を定め、これをみたした者を認定し、加盟各委員会に対して建築家として適格である旨を記載した認定書を交付しています。
(4)継続的教育プログラムの開発
 登録建築家の水準の保持のため建築家能力確認プログラムの開発、認定を行っています。現在は3つの州で登録更新の際の強制要件とされています。
(5)建築家業務を規制する基準の立案、勧告
 加盟委員会に対して指針となる立法上のガイドラインやモデル法を作成しています。
(6)外国人建築家に対する口述試験の実施

全米建築課程認定委員会(NAAB)

 全米建築課程認定委員会(National Architectural Accrediting Board)は、1940年に、NCARB、アメリカ建築家協会、建築系大学協会(Association of Collegiate Schools of Architecture)の三機関による協定に基づいて設立された独立の公益法人であり、建築家の資格取得条件である教育資格を取得できる大学の専門課程の認定を行う機関です。
 1991年の時点では、NAABの認定を受けているのは、93校の建築学士、修士です。
 なお、全米建築課程認定委員会は、高等教育認定評議会(Council on Postsecondary Accreditation)及び全米教育局の認可を受けており、専門認定機関評議会(Council of Specialized Accrediting Agencies)に加盟しています。

米国建築家協会(AIA)

 米国建築家協会 (The American Institute of Architects)は、1857年に設立された建築家の資格者団体で、所属会員数は正会員及びアソシエート(建築学科を卒業しているが、まだ登録免許を持っていない会員)、名誉会員の合計で約57,000人(1994年)となっています。
 職員数は、225名、年間予算は3,200万ドル。建築に関するプロフェッショナリズムの促進、継続教育や研修を通じて会員の能力の向上を図っています。また、建築学科の教育事業のスポンサーになっている他に、小学校や中学校の建築教育にも資金を提供しています。

州による建築家登録制度の違い

 各州の建築家法に規定されている登録制度には、制度の調整が進められているものの、まだ、以下のようにいくつかの違いがあります。(1993年現在)

実務経験の必要期間

 建築家の登録申請をするために必要な実務経験の期間は、大部分の州で3年間となっていますが、バージン諸島やウィスコンシンでは、2年間であり、フロリダとイリノイでは修士卒業者には2年間に短縮しています。
 32州では、建築実務にインターン建築家養成プログラムを義務づけており、この数は、年々、増加しています。

実務経験のみでの受験資格

 半数以上の州は、建築教育の代わりに建築実務を登録試験の資格として認めていませんが、例えば、アリゾナやカリフォルニア、グアム、テキサス、ワシントンの各州では、高校卒業後、8年間の建築の実務経験で受験資格を認めています。

称号独占、業務独占

 建築家として資格登録した者だけが、建築設計業務を行い、建築家という称号を使用することができるという、建築家の称号独占と業務独占を建築家法で規定している州が48州・地域と大部分ですが、業務独占だけの州が、アイダホ、ネブラスカ、ネバダ、ノースカロライナとなっており、称号独占だけの州が、ミシシッピー、モンタナ、ノースダコタとなっています。建築家法が称号独占だけの州では、他の資格者が、自己の能力の範囲内で、かつ建築家という称号を用いないで建築業務の一部(詳細図、施工図の作成、工事監理等)を行うことができます。

更新期間、更新手数料

 建築家の登録は全州で更新が必要とされていますが、更新期間は、1年間が23州、2年間が28州、3年間が3州、5年間がプエルトリコの1つとなっています。更新手数料は、20ドルから300ドルの間にあります。ちなみに、初めの登録申請料は、20ドルから450ドルの間に分布しています。

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