このページの先頭ですサイトメニューここから
このページの本文へ移動
公益財団法人 建築技術教育普及センター
  • English
  • サイトマップ

本文ここから

NCARB(全米建築登録委員会協議会)について

 (財)建築技術教育普及センター建築技術者教育研究所研究員 大下真哉

「QUA クウェイ」NO.9(1998年)より

〈はじめに〉

 アメリカ合衆国における建築家登録制度を知る上で、NCARB(全米建築登録委員会協議会:National Council of Architectural Registration Boards)の存在を無視するわけには行きません。既刊のQUA CHANNELでもたびたび登場してきました。今回は今一度、このNCARBという組織にスポットを当ててアメリカの建築家登録制度を紹介したいと思います。

歴史

 NCARBの歴史は、1919年5月、全米13州から集結した15人の建築家によって、全米建築家協会(AIA)の会議がテネシー州ナッシュビルにおいて開催され、まもなくNCARBの前身となる組織が結成されたことに始まります。そして2年後の1921年3月にイリノイ州非営利法(注1)の下、NCARBが誕生しました。当初、建築実務規制法を有していたのは、1897年に最初に成立させたイリノイ州の他17州のみでした。現在では、全50州が建築家登録法を有しており、NCARB加盟委員会の数も55(注2)となっています。

目的

 NCARBの目的は、創設時の表明文にもありますが、建築家の試験、免許、規制に関する情報交換の促進、免許法と業務法の統一性の促進、互恵登録の促進、免許試験の範囲・内容をはじめとする種々の試験方法のメリットの考察、全米の建築業の総合的教育水準の向上であります。これらは設立以来ほとんど変わらず現在のNCARBの目標として掲げられています。
 今日のNCARBの使命は、公共の健康、安全、福祉の保護につとめる加盟委員会の協議会としての機能、および加盟委員会の職務遂行の補助という側面もあります。またNCARBは、建築家登録志願者に求める基準の作成・勧告、建築実務の取締基準の作成・勧告、加盟委員会に対する証明書交付手続きおよび建築家登録要件の提供を行っており、公共・民間機関に対する加盟委員会の利益代表であるという立場を取っています。また適正な教育水準の維持という観点から、大学等建築学科の課程を適正であると認定するNAAB(全米建築課程認定委員会:National Architectural Accrediting Board)の設立当初から深く関わり、現在でも運営資金を供給しています。

組織

 NCARBは非営利法人であり、組織は、加盟委員会の数の増大、協議会としての役割の多様化などもあり、役職員の構成を含め幾度とない組織改編を経て現在の構成となっています。本部事務所も、イリノイ州シカゴ、アイオワ州シャリトン、オクラホマ州オクラホマ・シティと転々としましたが、現在は業務上交流の深い、首都ワシントンDC内のAIAの本部社屋の最上階にあります。(地図参照)
 そして加盟委員会にとって、全米規模に広がった多くの登録問題がその地域特有のものであり、各委員会の利益と不可分であるとの認識が生じるにつれ、各州のグループ化が進み、地方会議が形成されはじめました。地方グループの形成は、最初に西部、続いて3つの地方グループが組織化され、1964年6月、6つの地方会議(地図参照)の創設がNCARBに正式承認されることとなりました。州および準州は、地理的位置はもとより、既存の強固な職業的、経済的、商業的つながりに基づいて各地方に割り振られることとなったのです。
 この各地方会議は、その組織、目的、会議、財務、職員人事に独自に責任を持つこととなっており、また当然のことながら、全加盟委員会はこの地方会議のメンバーでなければなりません。
 この各地方会議の発足を受けて、役員会が1968年7月に再編成され、幹事である、会長、第一副会長、第二副会長、書記、会計、前会長の6名に加え、各地方会議より役員1名ずつの6名が含まれることとなりました。ちなみにこの12名の役員は、全員無報酬で公共のために働いています。またこの他にNCARBの職員としてのスタッフがおり、常任の副会長を筆頭にNCARBの事務を執行しています。
 NCARBの財政は、主に試験による収入、建築家への各種サービスに対する業務収入、出版物による収入、加盟委員会等の支払う年会費($3,000/委員会・年)が有り、概ね安定した運営を行っているようです。ただし、後述します建築家登録試験のコンピュータ化による出費の増大、収入の減等により、ごく最近では緊縮財政を引かざるを得ない状況にあるということです。

活動

1.試験

 建築家登録志願者への試験は、NCARBはもとより、いずれの州委員会の活動の中でも、最も労力と時間と費用のかかる難題だとされています。試験内容、実施方法、一貫性、採点/再受験基準、その他多くの試験運営面を決定すべく、当初から数百人もの人間の手によって莫大な時間とエネルギーが費やされてきました。
 初期の試験は、各州委員会が作成、採点していました。このような状況下では、有効な州間の互恵登録制度は存在せず、公共保護の全国的基準も存在していませんでした。
 長い歴史、紆余曲折を経て、NCARBへの統一試験実施の要求が高まり、現在では全加盟委員会はもとより、カナダでもNCARBの作成したA.R.E.(建築家登録試験;Architects Registration Examination)と称される試験を採用しています。つまり試験の合否は、直接は建築家登録に結びつかないまでも、全米どこでも一定の能力を証明するのに有効な手段であると言えるようになりました。また、1997年からは、全世界に先駆け、十数年の歳月をかけて構築したコンピュータによる試験(注3)を実施しています。紙と鉛筆による試験方式のもとでは、年にせいぜい1度か2度実施される程度であった試験が、コンピュータ試験では年間を通じて日常的に実施されることが可能となり、合否も試験の直後に受験者に通知できるというメリットも併せ持っています。

2.NCARB証明書の発行

 建築家の登録は、各州の建築家法に基づき各加盟委員会が行っています。つまり、ある建築家が、A州で建築家の免許を取得してもその免許をもってB州で業務を行うことはできません。こうした事態を避けるためにNCARBでは、申請書を提出し基準を満たす建築家に対し、証明書を発行しています。この証明書を持っていれば他州での登録が容易となります。一部の州では、追加で面接や試験を課している州もありますが、これは、地域特有の構造、法規等の理解がその州の登録時の要件になっているからです。これを除けば、全加盟委員会での互恵登録が実施されています。
 またこの証明書は、カナダの全州でも米国内と同様有効となっています。

3.インターンシップ

 新米の建築家が有資格者としてふさわしい建築家となるには、一定の実務訓練期間の満了を待たなければなりません。専門家は卒業生に対し、建築実務の難しさに実際に触れる機会を与え、学校で得た知識、技能、能力をいかに応用するかを学ばせることが、学校教育ではまかないきれないこととして求められていました。
 必要性は共通の認識となっていたものの、どのような実務訓練が基準を満たすかについては、NCARB内部でも見解の相違が相当あり、年月を要することとなりました。結局、AIAとの共同委員会により現行のインターン建築家養成計画(IDP:Intern-Architect Development Program)が策定されました。
 このIDPは、所定の教育を終えたインターン建築家にとって建築実務分野のうち15分野が重要訓練分野であるとし、各訓練分野の所要時間数を規定し、経験豊かな建築家の監督の下で実務を行うものです。NCARBはこの活動に対し、記録、編集、維持を行い、そのインターンが所属する州の登録委員会に記録の全てが提出されます。現在、建築家登録試験の受験要件としての実務訓練期間は、州により異なりますが、ほとんどの州でこのIDPを採用しております。

4.継続職能啓発(注4)

 一般大衆の、あるいは消費者の保護という観点から、建築家はそのキャリアを通じて知識、技能の向上を継続的に行わなければならないことは言うまでもありません。しかしこれを登録更新時の要件として義務化した場合、業務を行っている建築家に対し、あまりに過度の負担は強いられません。
 そこでNCARBではADVP(建築家能力啓発証明プログラム:Architects Development Verification Program)というプログラムを開発し、各加盟委員会が使用することを奨励しています。このプログラムは、建築家が簡単に利用できると同時に、効率よく能力を証明することができるよう構成されており、建築技術、システム等、進歩し続けている分野にも対応できるとしています。最初のADVPの冊子「省エネルギーに配慮した建築」が1993年に発行されて以来、「室内環境」「地盤条件」「建築防火」「耐風設計」と毎年重要である事項についての冊子が発行され続けています。
 また、加盟委員会が継続職能啓発を採択しようという時の参考としてもらう目的で、モデル条項も提案されています。

5.海外との交流

 建築家にとっての国際的なビジネスチャンスがますます身近なものになるにつれ、米国建築家の海外進出、もしくは外国建築家の米国での業務に関する問題が浮上するようになりました。NCARBは国外の建築家制度の実態を調査し、建築家資格の質の低下を防止するため加盟委員会に対し、外国人建築家に免許を交付する前に、米国人建築家事務所において最低1年間の適切な実務経験を積ませることを勧告しました。
 交流や情報交換にも積極的で、NCARBをモデルとして作成される中国の建築家登録試験と登録手続き作成を補助すべく、中国建築学会(ASC)と全国建築師登録管理委員会(NABAR)との間で3ヶ年の協力協定を締結しました。この協力により、中国では新しい制度で建築師登録をスタートさせています。
 我が国とも、お互いの制度を理解し合い類似点、相違点について認識を深め合う必要があるとして、1997年3月、当センターとの間で相互協力協定を締結しており、以後親密な関係で情報交換を行っております。
 さらに「建築家の登録に関する国際会議」の事務局も務めており、先導的な立場を取っています。
 2国間の資格の交流、いわゆる相互認証については、過去にイギリス、オーストラリアと協定を締結していたことがあります。また先にも述べましたが、1994年のNCARBとカナダのCCAC(カナダ建築評議会委員会:Committee of Canadian Architectural Councils)の相互認証協定締結に基づき、全米及びカナダの建築家は、NCARB証明を取得することによって、相手方の国での登録と実務が可能となっています。

〈おわりに〉

 NCARBの最大の特徴は、建築家の職能そのものというよりは、国家を形成しつつも各州が自治権を持つという連邦国家としての構成にあるようです。NCARB加盟の55の州や地域には、それぞれ建築家の登録を規定した法律が存在し、それぞれが個人の能力を見極め免許を付与しています。そしてNCARBは、これらに何とか共通点を見出し、もしくは推奨例を提示し、建築家の職能の確立、州間の建築家の自由移動の手助けを行ってきました。長い歴史の中でこれらはようやく成果を挙げてきており、今後は新たな展開が、米国内のみならず諸外国に向けてもあるかも知れません。

注1 1940年~現在はアイオワ州非営利法人法の下に設立されている。
注2 50州に、コロンビア特別区、グアム、北マリアナ諸島、プエルトリコ、米国領バージン諸島が加わっている。
注3 詳細は、QUA No.4 QUA CHANNEL「アメリカ合衆国におけるコンピュータ化された建築家登録試験について」を参照して下さい。
注4 詳細は、QUA No.5 QUA CHANNEL「米国における建築家継続教育制度について」を参照して下さい。

本文ここまで

サブナビゲーションここから

QUA CHANNEL

サブナビゲーションここまで

以下フッターです。

公益財団法人 建築技術教育普及センター

Copyright © The Japan Architectural Education and Information Center All Rights Reserved.
フッターここまでページの先頭へ