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公益財団法人 建築技術教育普及センター
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イギリスの建築家資格制度

建築技術者教育研究所 主任研究員/池田吉朗

 諸外国の建築技術者制度の現状を紹介するこの欄では、今回、「イギリスの建築家資格制度」を取り上げます。
 イギリスは、古くから医師や法律家などとともに建築家(Architect)が職能(プロフェッション)として確立されていた国であって国際的に著名な建築家も多く、我が国からも建築を志す学生が多数留学するなど、一種のあこがれの対象となってきたといえます。
 しかし、一昨年からの建築家登録制度撤廃の動き、第1回のこの欄でもご紹介したEU統合に伴う資格の相互承認など、イギリスの建築家をとりまく状況は、決して穏やかとは言えないようです。

「建築 普及&資格」NO.3(1995年)より

1 建築家登録資格制度

イギリスでは、現在、1931年建築家(登録)法(1938年及び1969年に改正)に基づいて設立された公法人である英国建築家登録審議会(Architects Registration Council of UK=ARCUK)に登録した者だけが、建築家(Architect)という称号を独占的に使用することを認められています。
 この法律は、王立英国建築家協会(Royal Institute of British Architects=RIBA)をはじめとする職能団体が、1860年代以降、建築家の資格を名称・業務独占の公的資格に高めようと努力してきた結果できあがったものと言えますが、同法で確立されたのは名称独占にとどまっており、我が国の建築士に認められているような業務独占に関する規定はありません。このことは、歴史的に様々な建築物の設計に携わってきた土木技術者(Civil Engineer)や調査士(Surveyor)のような職能と業務上の競争関係にあることを意味する一方、建築家という称号を名乗ることに対して特別な意味付けを行っているとも考えられます。

 建築家登録に至るまでには、長年にわたる厳しい訓練が待ち受けており、中途での脱落も少なくないようです。まず前提条件となるのは、原則として、ARCUKがそのカリキュラムを認定した建築系の大学を卒業することです。そして、パート3試験の前に設計事務所等での2年間の専門的な実務訓練も受ける必要があります。大学での学業と実務訓練は交互に(サンドイッチ制)行われることが薦められ、また、パート1からパート3の3段階で構成される専門試験に合格することが必要になります。したがって、資格取得の代表的なパターンは次のとおりとなります。
 学業3年間→パート1試験合格→実務訓練1年間→学業2年間→パート2試験合格→実務訓練1年間→パート3試験合格→建築家登録
 毎年ほぼ1,000人の建築家が新たに登録される一方、ほぼ同数の登録抹消者がいるため、ARCUK登録者数は横ばい傾向であり、1992年末現在31,261人にとどまっています。
 第1回で紹介しましたECの建築家資格の相互承認に関しては、1985年に制定されたEC理事会指令に基づいて、1987年及び1989年発効の勅令により、イギリスでも建築家(登録)法が改正され、EUの他の国で資格を得た建築家に対しても、一定の条件を充たせば1931年法の下での登録の権利が付与されることとなりました。

2 建築教育

建築教育は、従来、大学とポリテクニクの間で分担して行われてきましたが、1992年以降ポリテクニクが順次大学に移行したため、現在ではほとんど大学にゆだねられています。大学の建築学科は、医学部などと同様3年プラス2年の5年間で、イギリスの他の学科の課程より1年長く、高度な教育が行われています。
 建築家資格試験には免除制があって、実質的にその実施は各大学にゆだねられています。また、RIBAも独自の試験制度を持っており、これがARCUKの認定を受けています。このため、ARCUKとRIBAは各々の立場から、大学カリキュラムを調査し、認定を行っていましたが、1992年以降、イギリス内の大学に関しては共同で調査、認定を行うことになりました。1993年現在、RIBAにより認定されている学校は国内で38校、海外でオーストラリア・カナダ等を初めとする11ヶ国41校、合計79校を数え、しだいに増加する傾向にあります。

3 RIBA(王立英国建築家協会)

 RIBAは創立後160年を経た伝統と権威のある職能団体であり、ARCUK登録の建築家の約7割を占める2万人以上の会員を有しています。理事会の下に財務、職能倫理、業務、教育・職能開発、会員、外務、図書館等いくつかの委員会を置いて、協会会員及びクライアントに対する広範なサービスに務める一方、ARCUK認定の資格試験の実施、学校の認定、設計コンペや建築賞の主催等実に多彩な活動を行っており、実質的にイギリスの建築家登録制度を支える存在となっています。
 近年、建築家登録制度廃止を勧告したウォーン・レポート(次節4参照)に見られるように、建築生産にかかわる建築家の地位が脅かされつつあるとの認識から、ダフィ会長以下新たな活動に積極的に取り組みはじめており、戦略研究(フェーズI~III)の実施、継続的職能啓発(CPD)と呼ばれる継続教育の義務化、大学の建築教育の5年制維持をうたったバートン・レポートの作成、専門家賠償保険(Professional Indemnity Insurance)加入の強制化、協会の組織・予算の合理化等、矢継ぎ早に種々の改革を打ち出しています。

4 揺れる建築家資格問題

 1992年環境省が諮問を行った建築家登録法の再検討について、その翌年答申が出されました(ウォーン・レポート)。
 答申の全体的なトーンとしては、登録制の継続を主張する建築家の意見にもかかわらず、調査士等他の職能等の意見に賛意を示し、規制緩和という時代の要請に合わせて、建築家登録法及びARCUKを廃止するよう勧告しました。また、RIBAの活動実績を高く評価し、倫理規定はRIBAの自主規制にゆだねるのが望ましいとも述べています。
 一時はほぼ確実と見られた建築家登録法廃止法案の国会提出は、1993年末には中止され、建築家登録制度は当面維持されることになりましたが、建築家の登録機関ARCUKの大幅な改組縮小等の措置が行われることに決まり、現在その具体化に向けて環境省を中心に作業が行われているところです。その概要は次のとおりです。

(1)審議会(council)から評議会(board)への名称変更

 ARCUKは法的機構として存続するが、現在の名称は、建築家登録評議会(Architects Registration Board)へ変更される。

(2)評議会の規模の縮小

 評議会のメンバーは審議会メンバーの77人から15人に縮小する。

(3)評議員

 評議会は中立委員8人及び建築家7人で構成される。

(4)評議員選定の方法

 中立委員は政府が任命する。建築家の評議員は全会員により選出される。委員長は中立委員から選ばれる。

(5)小委員会(Committees)

 登録料と登録標準に関する事項を除いた他の事項を扱う小委員会を設置することができる。

(6)建築教育会議(BAE)

 建築教育会議は廃止される。

(7)法的懲戒委員会

 評議会は法的懲戒委員会を有する。懲戒という微妙な性格上、建築家と非建築家の両者から成る小規模な法的懲戒委員会で行うことが適当である。

(8)懲罰

 評議会は金銭を伴わない懲罰を課すことができることとする。現行の唯一の懲罰―登録簿からの抹消―は比較的軽い違反にはなじまないため。

(9)教育基金(Education Fund)

 教育基金は廃止される。RIBAが新たに基金を設立し、運営することとなる。

Column

建築家以外の建築関係技術者

 英国には建築家以外にも多くの建築関係技術者がおり、それぞれ独自の教育プログラムを受け、別々の職能団体を構成しているのが特徴。
 公認建築設備技術者協会(CIBSE)、土木技術者協会(ICE)、構造技術者協会(IStructE)等は技術評議会(Engineering Council)の指定団体となっているため、これらの協会の正会員となった技術者は、横断的に公認技術者(Chartered Engineer)という称号が与えられる。1993年2月現在、このような協会が42あって、機械、建築等5つの専門分野群ごとに技術評議会の指定を受けている。
 その他、公認調査士協会(RICS)に属する建築積算士、家屋調査士等の公認調査士(Chartered Surveyor)、公認建築生産管理協会(CIOB)に属する公認建築生産管理士(Chartered Builder)などがあり、建築生産の過程の中でそれぞれ独自の役割を担っている。

CPD(継続的職能啓発)

 建築家資格を持つRIBA会員に対して行う継続教育。以前から会員の能力の維持向上の手段として重視されてきたが、1993年1月から義務化された。会員の職務、関心に応じた広範なテーマの下に、研究会やセミナーへの出席、専門雑誌への執筆、見学旅行等形態も様々である。会員自身が作成する自己啓発計画書に基づいて原則的に1年間35時間のCPDを自主的に実施することとなっている。

建築家資格とRIBAに関する年表

 1834年 RIBA(当時IBA)設立
 1837年 勅許状(ROYAL CHARTER)授与、RIBAに名称変更
 1863年 RIBA建築教育認定試験実施
 1887年 RIBA会員登録試験制度実施
 1931年 建築家登録法成立
 1969年 建築家登録法改正
 1992年 バートンレポート公表
 1993年 ウォーンレポート公表、RIBA継続的職能啓発(Continuing Professional Development)を義務化
 1994年 ARCUK改革の具体化

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