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公益財団法人 建築技術教育普及センター
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WBTと建築教育

(財)建築技術教育普及センター建築技術者教育研究所
 主任研究員 西原憲一

「QUA クウェイ」NO.21(2001年)より

1.はじめに

 近年のOA化やインターネット(IT)の普及には、目を見張るものがあります。試験関係でもPC化(又はCBT:Computer Based Test)が進められ、アメリカでは建築士試験を含む多くの資格試験等に導入しており、我が国でも昨年10月よりTOEFLに、また、平成15年度より情報処理技術者試験の一部の試験にも導入することが経済産業省から発表されるなどの動きがみられます。
 OA・情報化は試験だけでなく、教育や研修にも取り入れられており、コンピュータを利用したCAI方式(注1)の教材開発も進み、建築分野を含め各方面で利用されるようになっています。更にコンピュータとITを利用したWBT(Web Based Training)[又はE-ランニング]の開発も進められ、一部で実用化しています。
 本稿は、このWBTの紹介と建築分野を含めた導入例等を紹介します。

2.WBTの概要

 WBTは、パソコンと通信ネットワークを利用し、IT等経由で、ウェブ上のコンテンツ(内容、中身)にアクセスして学習するものです。学校教育、企業研修、生涯学習など様々な教育、研修の分野で利用されており、今後その利用の拡大が見込まれています。
 学習者は場所や時間を選ばずに学習できる上、ITから配信される性質上、教材の変更が容易なので、最新の情報を元に学習が可能といった利点があります。また、管理者やアドバイザーは学習者の進捗状況やアクセス(IT接続)履歴等をリアルタイムで把握でき、これをもとに効果的な学習支援や質問への回答が可能となります。
 企業研修を例に挙げると、集合研修が一般的ですが、これは全国に支店等が散らばったり、研修施設を持たない企業等にとっては、受講者を同じ日時・場所に拘束するのが困難な場合もあり、また、移動、業務停滞等に伴う弊害を生じることもあります。これらを克服し、コスト削減を図る上で、好きな時間に好きな場所で受講が可能な教育システムに対する企業等の期待度は高く、WBTが注目されており、導入する企業も見られます。
 また、個人レベルでみると、宅地建設取引主任者・公認会計士・税理士、大学入学資格検定試験、英語・簿記など資格取得や生涯学習の分野で教材開発がされており、専門学校等に通う代わりに利用する例も見られます。

3.建築分野のWBTなど

 建築分野においてもインターネットのウェブ(ホームページ[HP])やメールを利用した研修・教育の導入・試行が行われており、その幾つかを紹介します。

ア CADのWBT教材

 CADの操作方法習得のため、専門学校にCADコースが開設されたり、CAI教材が開発されていますが、最近、社内研修の一環としてのCADのWBT教材が開発されました。これは、研修生がHPを利用してCAD操作を学習する一方、研修担当者は研修生のHPアクセス回数や進展状況を把握できるようなシステムとなっています。

イ 建設会社における社内教育用WBT教材の開発

 建設会社においても、社員教育用にWBT(E-ランニング)を導入する動きが見られます。社内のLANシステムを利用して上記アのようなCAD教育等市販の教材を導入するところもありますが、この他、労働安全や人事考課など社内の研修(教育)需要に合わせて独自のシステムを構築して実施する会社があります。
 鹿島建設では、建設現場での労働災害を防止するため、社員や協力会社を対象に安全衛生に関するWBTを今年10月1日よりテストラン、来年4月より本格導入する予定としています。この教材は、音声や動画を交えたHPを見ながら学習するもので、テストや論文形式の設問を通して各社員の習得状況をリアルタイムでチェックすることも可能で、時間や場所(職場や自宅など)選ばず学習ができます。これらの学習履修者には、昇格のインセンティブが与えられ、カリキュラムは法令の基礎知識、労働安全コンサルタント資格取得にも対応できるレベル、現場管理者としての高度なリスクマネジメント能力など3段階レベルで構成され、年齢や役職にかかわらず個人能力を高めることができます。

ウ 大学通信教育学部での教育

 最近、通信教育部において、ITやHPを利用している大学があります。そのうち、建築関係の教育を行っている大学は、京都造形芸術大学、愛知産業大学、大阪芸術大学があります。<詳細は次項で紹介>なお、前者二大学は卒業すると実務経験2年で一級建築士の受験資格が得られます。(後者一大学は受験資格申請中)。

エ 身体障害者に対する在宅教育

 通学が困難な身体障害者が建築関係の教育を受ける際に、WBTは有効な手段の一つと考えられますが、実際に行っているところはまだないようです。しかし、平成11年度に重度障害者の就労支援システムの調査研究(労働省)で、ITを利用したCADの在宅教育のモニタリングを行うなど、研究が進められています。
 これは、障害者の就労支援機関であるトーコロ情報処理センターが中心となって実施したもので、生徒と教官(専門学校CAD講師)間の伝達手段としてCAD図面を含め主にE-メールを利用した教育を行い、この生徒は半年間でCADの基本的な知識を習得し、建築事務所で仕事(主に在宅業務)をしました。

4.京都造形芸術大学通信教育部芸術学部における利用例

 平成10年4月に開学した通信教育部は、我が国で初めて建築系のコースを有する通信制大学ですが、情報の手段の一つとしてITを利用しており、HPなど積極的に取り入れています。
 まず、大学入学の条件としてインターネットプロバイダーに加入しアドレスを持つことが求められています。建築デザインコースでは更に大学の指定するCADソフトを購入とそのソフトが作動する環境のパソコンの所有が必要になります。
 大学は、HP上にサイバーキャンパスを設置し、ネットワークによる連絡事務や情報提供、学生同士の交流の場の提供を行っています。このサイバーキャンパスを通じて、履修申込や通信授業で作成したCAD製図の提出や教官による添削(返信)も行われています。
 また、『構造力学』、『日本建築史』など通信授業において、テキストの補助教材として解説用HPを設置し、学習の理解を深めるよう工夫がなされています。さらに、スクーリング授業で作成した製図(CAD)や学習記録を個人で編集しサイバーキャンパスに掲載することを推奨しており、卒業製作をHP上で発表することも予定しています。
 このように、同学部では教育の媒体にITなどを積極的に利用しており、通信教育の新しい方法を確立するとともに、建築教育においても新たな試みが行われています。

5.おわりに

 WBTは建築分野では一般的にはまだ馴染みがないかもしれませんが、ITの普及・発達や製図情報の電子化(CAD)により、建築分野にも普及していくものと思われます。例えば、継続教育の手段として有効と思われ、建築士試験の受験のための学習に利用される可能性もあると考えられます。
 また、障害者や育児を抱える主婦など在宅教育を希望している方に建築教育の機会が広がることに繋がるなどの利点もあり、今後の発展を期待しています。

<参考文献>

  • 通信に関する現状報告(平成11年)郵政省
  • 重度障害者の在宅雇用・就労支援システムに関する研究調査(労働省・日本障害者雇用推進協会)
  • 通信教育で建築を学ぶこと-京都造形芸術大学通信教育部のこころみ-(新建築 1998年4月号P61)中田千彦

注1)CAI(computer assisted instruction)
コンピュータの機能を生かして、コンピュータと学習者が会話をするように学習し、教育と学習の個別化・最適化を実現する方式の教育のこと。建築分野でも資格取得のための学習用ソフトが開発されている。

注2)FAQ(frequently asked question)
利用者からよく寄せられる質問に対する回答集。

注3)イントラネット
インターネット技術やWebサーバーなどを用いて構築した社内ネットワークシステム。

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