(財)建築技術教育普及センター建築技術者教育研究所
主任研究員 西原憲一
「QUA クウェイ」NO.23(2002年)より
前号では、アメリカのARE(建築家登録試験)などのコンピュータ化(CBT:Computer Based Testing)の事例等の紹介を行いましたが、今号では我が国の導入・検討事例等を紹介します。
アメリカで情報処理やIT(インターネット)関連のハードやソフトが開発されると、それを日本語の対応にして我が国でも販売され普及してきましたが、同様にアメリカで民間企業がそれぞれ実施し広く普及しているコンピュータ化されたベンダー試験(マイクロソフト、オラクル、シスコシステムズ等のIT系各種認定資格試験)についても、同様に平成7年頃より、日本語に翻訳する形で実施されるようになりました。受験者数も年々増加し、平成13年で約30万人となっています。
試験会場は、ブースで仕切られたスペースにコンピュータを設置したワークステーションで構成されており、受験生はそれぞれ申し込んだ試験科目について、決められた時間に来場し試験を行います。
<試験前の説明風景>
<受験風景>
写真提供:アール・プロメトリック(株)
英語を母国語としていない学生が、アメリカやカナダなどの大学に留学する際に英語能力の証明として義務づけられているTOEFL試験(英文)は、全世界で順次、試験をコンピュータ化し、我が国には、平成12年10月から導入されました(東京・大阪などの試験会場で導入。地方の会場では従来通りの方法で試験を実施)。この試験はアメリカのテスト機関ETSが行っているものですが、実際のテストの受付、試験会場の提供等はPrometric社の日本での合弁企業であるアール・プロメトリック社が行っています。(なお、ETSの子会社であるChauncey社は、アメリカのAREの実施主体であるNCARB(全米建築家登録委員会協議会)に対して試験開発や業務のコンサルタント等を行っており、Prometric社はAREの試験会場の提供をしています。)
試験科目には、Listening(聴き取り理解)、Structure/Writing(構成力/表現力)、Reading(読解力)とありますが、表現力(エッセイ)以外は、多肢選択式のCBTであり、試験終了後直ちに得点も分ります。しかし、表現力は、コンピュータ上でタイピング又は手書きで行い、採点は、採点者自らが行う部分があるため、得点が出るまで1ヶ月以上かかることもあります。
試験回数は導入前は年12回実施でしたが、導入後は祭日を除く毎日(ただし、同一受験者の受験回数はカレンダー月に1回に制限)となりました。受験料は導入前は円払いで13,500円でしたが現在はドル払いで110ドルです。受験者数は導入前は概ね年間12万人で、導入直後は約9万5千人(年の途中に導入したため両方式計)と減少しましたが、また増加してきています。
経済産業省所管の国家試験である情報処理技術者試験については、平成12年5月に外部の専門家、有識者からなる情報処理技術者試験評議委員会で、試験制度改革案の提案を行いました。そのなかで更に検討を要する課題の一つとしてコンピュータ試験を挙げ、次の論点等を提示しました。
Computer Based Testing(CBT)の導入について
(論点提示の際の説明事項)
※一般的にCBTでは、問題、解答は非公開であり、試験終了直後に個々人の成績を表示する仕組みになっている。
これらを踏まえた更なる検討やパブリックコメントの応募結果を踏まえ、平成15年中に情報処理技術者試験の一部の試験区分にコンピュータ試験を導入することが、平成13年4月に発表されました。我が国の国家資格では初めての導入となりますが、現時点で決定(発表)している概要は次の通りです。
厚生労働省所管の国家資格である医師国家試験については、医師国家試験改善検討委員会において検討を行い、平成11年4月に報告書を出しました。この中で「引き続き検討すべき事項」として「コンピュータを活用したシミュレーション試験の導入」を挙げています。また、コンピュータを用いた試験には触れていませんが、「平成13年の試験からの改善事項」として、「試験問題の公募、プール制の導入、試験問題の回収」を挙げています。具体的には、「全国の大学医学部・医科大学等に問題の作成について協力を依頼するとともに、視覚素材の提供は臨床研修指定病院にも依頼することが望ましい。ただし、これら公募した問題のうち、試験委員が各領域ごとにチェックした問題を、実際の試験において試行問題(採点対象としない)として相当数を追加して出題し、その結果、適切な問題を順次プールし、常時数万題の問題を備えるとともに、原則3年ごとにこれら問題を見直す委員会を設置することが望まれる。また、これまで受験生が持ち帰っていた試験問題は今後回収する。」としています。
試験作成の面からみると、試験のコンピュータ化も可能な体制(アイテムバンクの設置、正式な試験の中に試行問題の導入、問題の非公開等)に近づいているようにも思われます。
現在、政府はe-JAPAN重点計画に沿って、行政分野の申請・届出等手続きの電子化やワンストップサービスを推進しており、今後、各種申請手続きがオンライン化されコンピュータが今まで以上に身近で便利になるものと予想されます。前述の情報処理技術者試験では、試験のコンピュータ化の他、ITを利用し、クレジットカードと電子メールアドレスを用いて、ホームページ上で手続きを行い、申し込むことが可能となっております。一級建築士試験に関する手続についても、個別手続きのオンライン化実施計画(国土交通省)に基づき、平成15年度に実施方策の提示を行うこととしています。
試験のコンピュータ化については、我が国ではまだ導入事例は少ないですが、国家資格を含めた試験で導入の開始や検討がみられるようになり、各種申請手続き同様身近なものになっていく可能性もあると思われます。一方、建築士試験の場合、設計製図という構築式の試験問題があるため、他の試験よりコンピュータ化(採点を含む)に関しては難しい部分もあり、また、アメリカのAREなどの例をみると受験料の値上げ、応募者の減少、問題の非公開(建築士試験は平成10年度より公表、平成13年度より受験後持ち帰り可と最近、試験問題を公開した)等の実態があり、検討すべき事項は多いと思います。しかしながら、試験実施のハード面の問題やコンピュータ試験に対する一般の者の理解度を含む様々な状況が、急速に変化する可能性も考えられます。このため、当センターでは、国内外の動向等を引き続き把握・検討していくこととしています。